さて、これからどうしよう。自然とみんなで円陣を組んだ。ソラがきりだす。

「なんて言われようと、この世界の鍵穴は閉じなくちゃいけないだろ」
「あちこち、ハートレスだらけものね」

 人に言われたから止められる使命ではない。ソラに同意すると、右にいたグーフィーがいつもの笑い方をした。

「鍵穴についても何か知ってそうだったよね」

 鍵穴の話になったときのトリトンのあからさまな態度や世界に関する深い知識からして、可能性は高そうである。しかし、あの様子では彼から情報を得るのはとても難しいだろう。

「ウーン。何とか協力してもらえないかな……」
「ねぇ」

 ドナルドが腕を組み、タコ足をくねらせながら神妙な顔で唸っていると、消えそうなくらい遠慮がちな声がした。見れば、フランダーが端っこで居心地悪そうに浮かんでいる。アリエルと一緒に出て行ったと思っていたので、全員アッと驚いた。

「アリエルはどこに行ったんだろ? 探しに行きたいけど、僕こわくって……」
「そうだった、アリエル!」

 あんなことがあって、きっと今も悲しんでいることだろう。もしそんな心の闇に引き寄せられてハートレスに囲まれていたりでもしたら大変だ。
 アリエルを探すため、みんな慌ててかくれがから飛び出した。

「フランダー、アリエルの行き先に心当たりはない?」
「かくれが以外にアリエルが行きそうな場所は、ええと、えぇと……」

 思いつかないのか、フランダーはおどおどとするばかり。仕方なく大海をあちこち泳ぎ、周囲の魚たちに訊ねながらアリエルを捜しまわった。そして、ついに海底の砂に潜るカレイから「さっき城に向かう姿を見たよ」と教えてもらった時にはずいぶんと時間が経過していた。




★ ★ ★





 キーブレードを不要と言われようが別に出禁にされたわけではない。普通に城に入りこむと、初めて来た時とずいぶん様子が変わっていた。ハートレスを連れてきてしまった時ですら城じゅうで見かけていた魚やイソギンチャクたちが、今はみんな姿がない。

「城の魚たち、どうしたんだろう?」
「アリエルも見当たらないね。本当にここにいるのかな?」

 フィリアと首をかしげていると、突然、城の奥から女の高笑いが響いてきた。聞いたことのない少し下品な笑い声だ。こんな状況でいったい誰だ? 王座の間からのようだったので、トリトンが少し怖かったけどそちらへ向かう。
 なんとなくイヤな予感がするなか、王座の間へ続く通路へ曲がった時、玉座にグッタリもたれるトリトンと彼を心配するアリエルの姿が目に飛びこんできた。その側では闇のように真っ黒なタコ足の女がトライデントを握りしめてゲラゲラと笑っている。彼女のまわりを長いウツボたちがぐるぐる泳ぎながら言った。

「“鍵穴”が見つかりません」
「“鍵穴”はここにはありません」
「なんだって!?」

 ショックを受けたのか、やっと女の笑いが止まる。
 フィリアやアリエルたちのような人魚ばかり見ていたから、横にも縦にも大きなタコ女の迫力に少し驚いた。彼女はハッとこちらを振り向いて、目があうと一瞬顔を険しくしたが、すぐに不敵に唇を歪める。

「おや、邪魔が入ったね。けれどすこしばかり遅かったようだよ。ぼうや」

 初対面なのに、まるでこちらを知っているような口ぶりだ。こちらの返事も待たずあっという間に煙幕に包まれて女とウツボたちは消えてしまった。

「ソラ、大変!」

 フィリアが叫ぶ。あの女からトライデントで攻撃されたのか、トリトンは腹に大ケガをしていた。水の中でなかったら涙を流しているだろうアリエルの「パパ」と繰り返し呼ぶ声にも反応がない。急いでフィリアとドナルドと共に泳ぎ寄り三人でケアルを何度も唱えると、傷がふさがりうつろだった瞳に意志が帰ってきた。

「パパ!」

 「ごめんなさい」と縋りつくアリエルに、トリトンは咳きこみながらゆるくかぶりをふる。

「わしのことより、トライデントを取り戻さねば――」

 トライデントは海の力そのもの。キーブレードと違い持ち主を選ぶことはなく、トライデントの持ち主こそが海の支配者となる──あの女に渡してはいけない。

「急いで追いかけるぞ!」

 仲間たちと頷きあい、いざ出発しようとして目の前にアリエルが飛び出してくる。悲しみと怒りに満ちた強い決意を宿した瞳は美しく輝いていた。

「お願い、私も連れて行って。私のせいでパパを傷つけてしまった。私がアースラを止めなきゃ」

 あの女はアースラ。アリエルを利用し、トリトンを傷つけトライデントを奪い取ったようだ。
 まだまだこの海の世界を知り尽くしていない自分たちにとって、アリエルの助力は心強い。トリトンはアリエルへ「危険だぞ」と言ったものの、それ以上は彼女の決断を止めなかった。代わりにセバスチャンを横目で見て、彼の意志を汲んだセバスチャンがハサミをぐるぐる回して寄ってくる。

「ええい。この私もお供いたしますぞ!」

 セバスチャンはそのままドナルドのタコ足の一本にひっついてフンと意気込んだ。トリトンがまた咳きこみ泡を吐きだす。

「あの魔女……アースラについて私が知る限りのことを教えておこう」

 過去に王宮のお抱え魔女だったアースラ。相当な実力者だったが、それゆえ野望に満ちた事件をたびたび起こし、ついに城から追放された後はどこで何をしているか不明だったという。今は船が沈んでいるあたりから現れるらしいとウワサがあったり、ツボを扱う魔術を得意としていたことなどを教えてもらった。

「とりあえず、そのウワサの場所に行ってみよう。もしアースラがそこにいなくてもヒントがあるかも」

 強大な力を手に入れたアースラがどんな行動をとるか分からない。気がはやり、いつも以上のスピードで大海へと泳ぎだした。




原作沿い目次 / トップページ

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -