ジャスミンもジャファーも見失い、ハートレスに追われるまま裏通りを脱出し、結局、また大通りへと戻ってきてしまった。
 広い道をほとんど埋め尽くすハートレス達は、金の瞳を一瞬もそらさずに襲いかかってくる。はぐれたら終わりだ。ソラが先陣きってハートレスを倒してゆくのに、必死についていっている状態だった。

「――フィリアッ!」
「あっ」

 ハッと振り向いたソラに呼ばれるのと、スパッと斬られた感覚は同時だった。死角からバンディットが剣を投げてきていたらしい。とっさに体を捻ったため傷は負わなかったものの――はらっと服を纏っている感覚が弱まった。ソラが目を丸くしている。

「フィリア、服が……」
「えっ、きゃっ!」

 服の左側側面を縦に大きく切り裂かれていた。重力に従い服が地に落ちようとしている。とっさに上半身を腕で押さえたが、スリップのごとく切り込みを入れられたスカートまではフォローできていない。こんな道の真ん中で、ソラの前で、なんてこと。

「や、やだ。ソラ、見ないで……」

 恥ずかしいし、なるべくソラから身を隠したくて、その場で身体を抱きしめてうずくまった。足を止めたこちらを仕留めんとハートレスたちが襲いかかってきているのに。戦わなくちゃ。でも動いたら。
 半泣きになっていると、仲間たちが集まってきて、こちらに背をむけて囲んでくれた。

「み、見てない。なにも見てないから!」

 耳の裏が真っ赤なソラが早口で言う。グーフィーが飛んできた火の玉を盾で弾いた。

「ドナルド、フィリアの服、どうしよう?」
「えぇと……アッ、あそこに服屋があるぞ!」

 グーフィーに問われたドナルドが近くの露店を指す。すぐにソラが「あそこから借りよう!」と答えて、店の周辺にいたハートレスたちを蹴散らしてくれた。露店にはもちろん店主はいない。これは万引きになるのでは。世界の秩序が――心配になってそんなことを口走ったが、ドナルドは「そういうのはあとで!」と叫び、店に並んでいた服を数着ガバッ集めて渡してくれた。

「どこか、着替えられるところに行こう」

 こんなことで戦えなくなるなんて全く予想していなかった。ありがたいやら申し訳ないやら恥ずかしいやら、いろんな気持ちにさいなまれながらも、とにかくみんなでハートレスが追ってこない場所まで逃げる。


 次に逃げ込んだのは、大通り近くに建っていた建物の最上階。瓦礫とガラクタだらけであったが、城を眺めるにはこれ以上ないほど見晴らしのよい場所だった。

「僕たちはあっちにいるから、あの影で着替えちゃって」
「うん。ごめんね……」

 ドナルドに頷いて、そそくさと物陰に入る。また、みんなの足手まといになってしまったことが悲しかった。斬られた服は、あとで時間がある時に繕おう。しょんぼりしながら、抱えていた服たちを確認すると、実に色とりどりで――。

「これ、ふつうの服じゃない……」

 どれも肌を惜しみなく晒したり、透けた布であったりと水着みたいなものばかり。この世界の女の子の服はこういうものが主流なのだろうか。ひらひらと透けた黒いものと、厚い布地の赤い服は胸元のサイズが合わない。桃色のは胸元の開き具合が大胆すぎて着る勇気がでない。白いものは残念ながら小さいみたい。紫のものは大人用か、大きすぎて布を引きずってしまう。最後に残った黄色と青色の服で悩んで、わずかに布面積が広そうな青色の服を選んだ。陽に輝く海と空の色――ソラの瞳の色と同じ。
 鏡がないが、おそらくまともに着れたと思う。歩きだすと薄布がひらひら揺れて、装飾がシャラシャラ鳴った。防御力はともかく、とても動きやすい服だと思う。

「おまたせ」

 失態がきっかけだったけれど、こんなに可愛い服を着られることにちょっと気持ちが高揚していた。ポーションを飲んで休憩していたらしいソラたちがこちらを見てパカッと口を開く。

「ワォ。フィリア、とっても似合ってるよ」
「ウンウン。すごくかわいい」
「ありがとう」

 グーフィーとドナルドが褒めてくれて、嬉しくなる。反応が気になって黙っているソラを見ると、視線があった途端に彼はアッとはにかんで、クセのように頭をかいた。

「綺麗だったから、つい見とれちゃった」
「そんな。褒めすぎだよ……」

 かあっと頬が熱くなり、まともにソラの顔が見られなくなる。服を替えただけでそこまで褒めてもらえるなんて。胸をしめる幸福感をかみしめた。先ほどの悲しい気持ちを忘れてしまうくらい。今までにあった、どんなことよりも嬉しかった。




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