ハートレスの船を撃ち落としながら「昔、リクとやったゲームに似てるかも」と呟いたソラのグミシップの運転はとても安定していたため、いつでも交代できるよう身構えていたドナルドも、次第にのんびり窓からの眺めを楽しんでいた。
 チップとデールの案内に従って、ナビグミの力で現れた新しい道をくぐると、今まで見てきた星の海とは少し雰囲気が違っていた。ハートレスの船の数が多く、逆に光っている星は少ない――闇が深く、強く渦巻いている。

「ソラ。そのまま、まっすぐに進んで」

 チップに従ってソラが障害物を撃ち落としながら進む。次第に世界の放つ光が見えてきて、ターザンと出会った緑が溢れる世界とは全く違い、砂が強く照らされ黄色に輝く世界が現れた。





 カラッとした空気に、水色の空と真っ白な雲。スパイシーな香辛料の香りが漂うアグラバーの王都に降り立ったものの、この広大な街はいま、水を打ったように静かだった。

「ぜーったい、おかしい」

 ドナルドが険しい表情でアグラバーの砂の色した街並を睨む。自分もグーフィーの傍から離れないよう気をつけながら、首をキョロキョロ動かした。この街の建物はオリンポスのように古来からの伝統があるように感じられる。

「誰もいないね……」
「みんな、どこへ行っちゃったんだろうねぇ」

 いま立っているのは、アグラバーの城門広場。砂の道には数多の人々の足跡が残っているし、道の横に立ち並ぶ、鮮やかな布を天井替わりにした露店たちには、果物や衣服、装飾品、香辛料の壺などがキレイに陳列したままだ。ついさっきまで人がいた名残がこれほど生々しくあるというのに、まるでゴーストタウンのように人の気配がしなかった。

「とにかく、あちこち行ってみようよ。もしかしたら、まだ残っている人がいるかもしれないし」

 ソラは迷うことなく街の中心――玉ねぎのような屋根をした、立派な城の方向へと歩き出したが、数歩もいかないうちにキーブレードを呼び出した。グーフィーが盾を構え、ドナルドも杖を振り上げて叫ぶ。

「気をつけて。ハートレスだ!」

 まるで歓迎の挨拶に駆けつけてくれたかのよう。城門広場に繋がっているありとあらゆる道からハートレスたちがわんさかやってきて、あっという間に取り囲まれてしまった。

「せっかく新しい世界に来たのに、一番に出会うのがハートレスなんて」

 うんざり思いながらも、初めて見るハートレスたちばかりだ。きちんと警戒を忘れない。特に多いのは人に近い姿をしたハートレス――バンディット。頭にターバンを巻き、剣先が曲がった長い剣、シャムシールを握っている。
 早速斬りかかってきたバンディットの剣をキーブレードで受け止めて、ソラは反撃しながらつき飛ばした。コテンと地面に転がった拍子にシャムシールが街の石壁に深く突き刺さって、敵の武器の切れ味を知る。

「ここ。まさか、ハートレスの世界だったりして?」
「そんなこと、あるわけないでしょ!」

 ラージボディによく似たファットバンディットが吐いた炎を避けながら、ソラの軽口へドナルドがツッコミをいれる。けれども、これだけハートレスが街の中心にはびこっているということは、闇に堕とされかかっている世界なのは間違いないのだろう。もしかしたら――恐ろしいことだが――住んでいた人々はみんな心を闇に堕とされて、もう誰も残っていない可能性だってある。

「ひゃっ……!」

 ギラッと太陽に輝く刃が迫ってくるのが見えて、慌ててブリザドを撃ちつつ距離をとった。仲間たちと違って武器を持たない自分には、ハートレスの刃物は避けるしかない。剣から守ってくれるソラとグーフィーの後ろに隠れ、こそこそ立ち回っていた。

「ああ、もう。キリがない!」

 ファイアを撃ちながら、ドナルドが叫ぶ。
 襲われるまま戦っているうちに、いつの間にか大通りへたどりついていた。その名に相応しくきちんと整えられた広い道にも、やはり住民らしき人影はなく、代わりにハートレスの襲撃は苛烈になってゆく。

「もう、魔力がほとんどないの」
「ここは一度、引いた方がいいかも」

 グーフィーの冷静な判断に頷く。すっかり息が上がり、みんなずいぶん消耗していた。この調子でハートレスと戦い続けていたら、あと数十分と持たず力尽きてしまうだろう。

「わかった!」

 ソラがサンダーとブリザドを続けざまに唱えて、バンディットを二匹同時に消滅させる。

「みんな、こっちへ!」

 ソラの呼ぶ声に従って、みんなで暗くせまい裏通りへ逃げ込んで、積み上がった木箱の陰に身を潜ませた。こちらを見失ったハートレスたちは、しばらく探す素振りをしたが、やがて大通りへと戻ってゆく。
 安全を確認したドナルドが手早くリュックからポーションやエーテルを取り出し、全員へ配ってくれた。すっかりノドがカラカラだったため、エーテルをお風呂上りの牛乳のように飲んで、ほうっと息を吐く。
 いち早くポーションを飲み終えたグーフィーが、大通りの方角を覗いた。

「まだ、僕たちのことを捜しているみたい」
「しばらく、大通りへは戻らないほうが良さそうだな」
「いったい、この世界に何が起きているんだ……」

 ソラが空瓶をドナルドへ返し、ドナルドはそれをリュックにしまい込みながらぼやいていた。
 違和感があった。この世界の様子だけではなく、ハートレスも少しおかしいと感じていた。普段は野生動物のように己に近寄る者だけを襲うハートレスが、数匹の群れを作って行動し、襲う対象をこれほどしつこく探しているなんて――。
 空のエーテルを持ったまま考え込んでいたため、ドナルドが訝しんでいた。

「フィリア、どうしたの?」
「この世界のハートレス。ゴリラだけを狙っていたハートレス達と、ちょっと似てるなって思って……」

 その時、ソラから「あ」と小さく声があがったので、みんなで彼の方を見た。自分たちの近くにあったら別の箱の隙間から、不安そうに身を固くした艶めく黒髪の女性の姿が覗いていた。ふと、彼女もこちらに気づいたらしい。美しい容姿に相応しい、耳障りの良い声が「そこにいるのはーー誰?」と囁いてきた。




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