小さくて柔らかく、あったかくて手ざわりのよい毛並みは、触れるだけで愛おしい。
 時計台の近所にあった家には、これまで助け出してきた子犬たちとその親犬であるポンゴとパーディタが住んでいた。ドナルドがジミニーの記録を合わせ、きちんと届けられているか確認している最中に、子犬たちと遊んでいた。喜ばしいことに、子犬たちもこちらのことを覚えていて、短い尻尾をぴろぴろ振って歓迎してくれた。抱っこすれば頬をぺろぺろ舐めてきてくすぐったい。横目で見れば、ソラも同じようにされて、頬がぺかぺかになっていた。

「本当に、よかったね……」

 きゃんきゃん鳴きながら親犬にじゃれつく子犬たちを見ていると、こちらまで幸福な気持ちになる。ソラがキーブレードの勇者として冒険しなければ、彼らの再会もなかったはずだ。やっとというべきか――初めて、ソラがキーブレードに選ばれて良かったと思った。



 後ろ髪を引かれる思いで子犬たちの家をあとにし、からくり館の屋上へ。次々現れるハートレスたちを押しのけて、やっと鐘を見つけたものの、大きな箱や壁で塞がれていた。誰も近づいた跡がない。「誰が鐘を鳴らしていたのか」の答えがいよいよ幽霊みを帯びてくるというものだ。
 ソラが少しワクワクした表情をしている。

「3回鳴らすと、何かが起きる……だよな」

 ドナルドも背伸びして、箱の隙間から鐘を覗き込んだ。

「ヒモが垂れてるぞ。あれで鳴らすんだね」
「ちょっと遠いね……グーフィー、届く?」
「箱が邪魔で無理だよぉ」

 では、魔法でどかせることはできないかと思ったのも束の間、ソラ・ドナルド・グーフィーが「いくぞ」と声をかけあって、体当たりして壊してしまった。箱も壁もあっけなく壊れてしまったからいいものの、怪我しないか心配になる。

「これで鐘が鳴らせるな」

 なんの躊躇いもなくソラはほいほいっとヒモを引いて、鐘を鳴らしはじめてしまった。テロンテロン……誰も歩いていない夜の街に鐘が不気味に響き渡ってゆく。

「あ……?」

 ソラが三回鐘を鳴らしきった時、何も変わっていないように見える街から、確かに何かの気配を感じとった。先ほどのまでの静かな夜の2番街とは違う。まるで夜が明けたかのようだ。何か大きな気配が現れたのだ。

「フィリア、どうかしたの?」

 グーフィーに問われ、むしろこっちが不思議だった。これほどこの場所の雰囲気が変わってしまったのに、どうしてみんなは普通にしているのだろう。

「この街、さっきと変わったような気がしない?」
「何が?」

 ドナルドも、全く分からないといった様子で自分がおかしいのかと不安になる。けれど、いままで見てきたからこそ、具体的に表せる言葉があった。

「ドアノブさんや、ターザンのイエの時と似てる」

 しかし、その言葉を伝える前に「おーい」と鐘を鳴らしきったソラがやってくる。

「鐘も鳴らしたことだし、とりあえず街を探索してみようぜ!」
「ソラ、はりきってるねぇ」
「だって、何が起こるのかワクワクするだろ!」

 もし素敵なことだったら、レオンたちも呼ぼう! と、ソラがニコニコの笑顔でそう言った。




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