やっとフィリアが泣きやんでくれてホッとしていると、エアリスが話しかけてきた。

「そういえば――かねのこと、少し気になる」
「ああ、さっき鳴ってたやつ?」

 ユフィがそうそう! と話に入ってくる。

「2番街のからくり館のかねだよ。3度鳴らせば何かが起こるって言い伝えがあるんだ」
「でも、今はふさがれていて、誰も近づけないはず……」

 エアリスの発言で、みんなの顔色が悪くなった。

「じゃあ、誰が鳴らしているんだろう?」
「まさか、オバケ……?」

 ドナルドの問いを考えたフィリアが、自分の回答に怯えて涙目になるので焦る。

「ハートレスかもよ」

 グーフィーも答えるが、結局ここで考えていても正解は分からない。
 シドがヘッ! と鼻を擦った。

「あやしいってんならしらべてみりゃあいいんだ。3回鳴らせば、はっきりするぜ」
「そうそう。任せろよ。俺が行って確かめてくるからさ」
「また勝手に決めて」

 みんなを安心させたくて言ったのに、目を三角にしたドナルドに睨まれる。

「みんなが不安がっているんだから、仕方ないだろ?」
「僕たちの手におえないものが出てきたらどうするんだよ!」
「俺たちなら、なにが出てきても大丈夫だって」
「ムチャばっかりするくせに」
「なんだよ、なんとかなってきただろ」
「フォローする身にもなってよね」
「ドナルドも、結構ムチャしてるよねぇ」

 グーフィーまで混じってきて、やいのやいの言い合っていると、にんまり笑ったシドが頭をわしづかみにするように撫でてきた。ガシガシガシ。痛いって! と振り払う。

「ところで、本は届けてくれたか?」
「ああ。ちゃんと届けたよ」
「助かったぜ。悪かったな、キーブレードの勇者さまを使っちまってよ」

 それから、シドからナビゲーショングミだけでなく、新たにテレポグミを取りつけてくれたと説明があった。一度行ったことのある世界なら、グミシップ内部とチップとデール側のメモリーに記録された座標をうんぬんかんぬんして……とにかく、子犬を転送するドナルドの魔法のように、自分たちを瞬間移動させてくれるすごいグミらしい。

「すげぇ」

 素直な感想に気を良くしたシドが、鼻高々な表情になる。

「さてと、そろそろ俺も本業に戻るとするか」
「本業って?」

 その言葉を待ってましたと言わんばかり。シドはおっさんの茶色の腹巻姿なのに、ちょっとかっこいいと思うくらい、ニヒルに笑って決めてみせた。

「そいつは見てのお楽しみだ。ヘヘ、まあ1番街に来てみろや」

 それじゃあな、とシドが小屋から出ていく。自分たちも出ようとしたら、レオンに呼び止められた。

「ソラたちのおかげで、子犬たちが戻ってきている。会いに行ってみたらどうだ」

 ちょうど、かねまでの通り道に、彼らの家があるらしい。レオンに住所を教えてもらった。

「あ、そうだレオン。さっきくれたお守りの石なんだけど――」

 フェアリーゴッドマザーに教えてもらったことを伝えると、レオンはあの石を特別だと感じていた理由に納得したようだった。
 
「そうか、あの石は召喚石というのか。おまえなら使いこなせるだろう」
「うん。それじゃあ、そろそろ行くよ」
「マレフィセントの考え、私たちもさぐってみる」

 それじゃあと、小屋の扉を開いたとき、今度はエアリスが「ちょっと待って」とフィリアを呼び止めた。

「泣いてたでしょ。目もと、ちょっとはれちゃってるよ」

 エアリスは上品な仕草でフィリアの頬に手を当てると、ケアルを唱えた。フィリアはほわーっと無防備な表情で、彼女を見上げ「ありがとう」と恥ずかしそうに礼を言う。

「ハートレスにひどいことされた?」

 フィリアは少し困り顔で、首をふるふる横にふった。

「エアリスの言っていたとおり、他の世界でもハートレスはよく襲ってくるけど――今は、やっと友達と会えたのに、またはぐれちゃったことが、とても悲しいの」
「そっか……」

 抱きしめて、よしよし、なでなでとフィリアを甘やかしているエアリス。口にはとても出せないが、正直、羨ましいと思った。キレイなお姉さんに抱きしめてもらうことも、カワイイ女の子を抱きしめて慰めるのも。ふとレオンを見ると、彼も何を考えているのかわからない表情で二人を見ていた。ユフィに「スコール、羨ましいんでしょ〜」とニヤニヤ言われて「ちがう。それに、レオンと呼べって言ってるだろ」とぶっきらぼうに答えていた。

「だいじょうぶ。一度会えたんだもの。信じていれば、きっとまた会えるよ」
「うん……!」

 嬉しさと照れが混じった真っ赤な顔でフィリアが頷いたところで、今度こそみんなと別れる。
 フィリアは「エアリスがまるで、本当のお姉ちゃんみたいで――なんだか、とても懐かしかった」と、ふにゃふにゃな笑顔で言った。




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