やっと再会できたと思ったら――。しばらくの間、待てど探せど、もうリクは見つけることができなかった。
仕方なく、泣きじゃくるフィリアをなだめたあと、シドに言われていた小屋へ向かった。生活に必要な家具が置いてあるのが不思議なくらい狭い部屋では、シドだけでなく、レオンやユフィ、エアリスも待っていた。いつもはどんな環境でも笑顔を忘れないエアリスやユフィまで、レオンのように暗く険しい表情で俯いている。
「何かあったのか?」
「おめえら、マレフィセントを知ってるか? 今、この街に来てるんだとよ」
シドが憎々しげにその名を呼んだ。
「何者?」
「魔女だ、魔女」
魔女マレフィセント。その名を聞いて、普段の五割増しに暗いオーラを発しているレオンが床を睨み続けながら言った。
「ハートレスが増えたのは、魔女マレフィセントのせいらしい。強い力を持った魔女だ」
「何年も前から、ハートレスをあやつっていた」
レオンの言葉を継いで発言したエアリスも、眉根を寄せ、憎しみを堪えているようだった。
「奴のせいで、俺たちの世界は……」
レオン達も、きっとそうなんだろうなとは思っていたが、いざ語られるとハッとする思いだった。シドが続ける。
「俺たちの世界も、突然現れたハートレスの大群に襲われて、崩壊しちまったんだ」
ギリリと手袋が鳴るほど、レオンは拳を強く握りしめていた。
「9年前の話だ」
「で、オレはガキだったこいつらをつれて、この街に逃げてきたってワケだ」
シドが肩をすくめる。ドナルドが「なんてこった……」と呟いた。ハートレスたちは、マレフィセントに命令されて、レオンたちの世界や自分たちの世界、そしてありとあらゆる世界を闇に落としている。とすれば、自分たちの世界もマレフィセントのせいで闇に落ちたのか。
レオンがこちらを見る。
「俺たちの世界は、アンセムという賢者がおさめていた。彼はハートレスを研究していた。おそらく弱点を探していたんだろう」
「アンセムの手記を読めば、ハートレスを止めるヒントが見つかるんじゃねえか」
オタクは必ず記録を残すもんだ。と、シドが妙な確信を持って言った。
ハートレスの弱点さえわかれば、もしかして、もっと楽な解決法があるかも知れない。
「その手記ってどこにあるんだ?」
首を横にふりながら、レオンは視線をそらす。
「わからん。俺たちの世界が襲われたとき、各地にばらばらに散らばってしまったらしい」
「おそらく……大部分はマレフィセントの手に落ちたろうな」
シドのため息交じりの言葉で、とりあえずその会話は終わった。ジミニーに頼んで、探し物リストに“アンセムのレポート”を加えてもらう。
「フィリア、だいじょうぶか?」
ひと通り話が終わり、やっとフィリアへ話しかける。リクがいなくなるやあんなに泣いたフィリアを見て、正直、落ちこんだ。頼りになるリクがいなくなったから、泣いたのだと思った。自分じゃ頼りないのかな。とにかく、笑顔にしてあげなくちゃ。
フィリアはすっかり赤くなった目元を指でぬぐっていた。すんすんと鼻をすすり、背をなでてくれるグーフィーにずっとくっついている。
「フィリア、顔を上げろよ。ホラ、俺を見て。リクがいなくても大丈夫だって。俺たちがいるだろ」
「ソラ……」
まつ毛を涙で濡らした瞳は、ジッと見つめてくるし、何か言いたげに開かれた唇は、やはり何も言わずに引き締められた。きっと本心を打ち明けられていないと、普段女子からニブイと言われる自分でも、さすがになんとなく分かる。
ドナルドとグーフィーもウンウン頷く。
「そうだよ、フィリア。ぼくたちとの約束を忘れちゃった?」
「怖い顔、かなしい顔はダメ!」
笑顔で旅をしよう。一番最初に交わした約束だ。
笑顔! 笑顔! 笑顔になろう!
三人笑顔でつめよって、フィリアへ笑顔の圧力をかける。
「そうだったね。ごめんね、もう、だいじょうぶ……」
少し戸惑いつつも、フィリアは小さく頷いて、今度こそ涙をぬぐった。
★ ★ ★
「ごらん、言ったとおりだろう?」
魔女の得意げな声が不愉快だった。
小さな家に入っていったソラたちの様子は、カーテンが降ろされていない窓から丸見えだった。
「おまえは必死になってあの子らを探していたけれど、あの子らはちゃっかり新しい仲間を見つけていたって訳さ」
やっと会えた友達は、確かに自分を探してくれていた。けれど――。
怪しげな魔女と取引してまで友だちを探していた自分。
世界の救世主だともてはやされて、新しい友達と楽しく世界を飛び回っていたソラ。
別れても悲しんでいたのはフィリアだけ。ソラは全く気にせず笑っている。
再会前、魔女に「あいつらには自分が必要なんだ」と強気に言い返していたのに、このざまだ。
「あの子はね、おまえよりも新しいともだちのほうが大事なんだ」
ドロドロとしたイヤな感情に胸中が支配されてゆくのがわかる。勝手なことだと分かっていても、同じくらい想っていてほしかった。もっと探してほしかった。必要だと思って欲しかった。長年、自分の支えにしていた、あの約束を覚えていてほしかった。思い出してほしかった。
鍵のような剣を持ち、勇者なんて呼ばれて、頼りにされているソラが随分遠く感じる。あの剣は、かつて憧れたあの人の持っていたものに似ていた。なんでソラが持っているのだという嫉妬もあったし、ソラなんて大したヤツじゃないのにという見下しもあった。
あの時、故郷の扉を開いたのは、こんなことのためではなかった。
本当は、自分とカイリが彼の横で冒険しているはずだった。新しい友達がいれば、いなくても構わない。お前にとって、俺はその程度だったのか?
違う。ソラはそんなやつじゃない。分かってる。分かってるけれど、自分を見失ったすぐ後に、新しい仲間とヘラヘラ笑っているのを知りたくなかった。
自分の居場所がわからない。帰る場所はなく、行くべき場所も思いつかない。
「でもね、心配することはないよ。あんな子のことは忘れて私とおいで。おまえが望むものを見つけてあげるよ――」
もはや、胡散臭い魔女の言葉に縋るしかなかった。
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