再び木の扉をくぐって三番街へと戻ってくると、行く手を塞ぐかたちでハートレスが二匹現れた。ソラが戦闘体勢に入る前に、誰かが飛び降りてきて、一瞬で倒してしまう。
「どうしたんだ? だらしないな」
クスッとした笑いと共に、ソラへ投げかけれられる男の子の声。間違えるはずがない。そこに、リクが立っていた。
「リク!?」
両手を差し出したソラがよたよた歩いて、そのままハグするのかと思いきや、リクのほっぺをぎゅうと引っ張った。リクも驚いたのか、しばしフニフニ変顔を晒す。目をきょときょとさせて「な、なんだよ」とソラの手を振り払った。ディスティニーアイランドだったら、ソラにゲンコツしてたかもしれないリクも、上機嫌で再会を喜んでいた。
ソラは口をぱかった開けたまま、リクを頭からつま先まで眺めていた。
「今度は幻じゃない、よな」
「何言ってんだ? やっと会えたってのに」
「リク!!」
ソラの笑顔を見ながらキザっぽく髪をかきあげるリク。あぁ、本当のリクだ。鼻の奥がツンと痛み、ぐすっと溢れた涙を指でぬぐった。
「リク、元気そうでよかった……」
「ああ。フィリアも無事でよかった」
「私たち、ずっと捜していたんだよ。本当に、本当に会いたかった」
「迎えに行くって約束したろ」
リクに髪を撫でてもらえるのは、すごく久しぶりに思えた。
そうして、リクを加えて歩き出す。ソラとリクが並んで歩く後ろ姿を眺めていると、やっと運命島で一番最強の組み合わせが揃ったのだと、わくわくした気持ちが生まれた。そして、とても寂しいけれど、共に戦うのはリクに任せ、自分はマーリンによって隔離されているのが一番ソラのためになるのだろうなとも。
自分がソラの一番の相棒になれないことは残念だけれど、リクならばソラは背中を預けて戦えるだろう。リクと再会できてよかった。そんな考えに耽っていると、ふとソラが立ち止まってリクに言った。
「そうだ、カイリは――」
「一緒じゃないのか?」
リクが知ってるかと思いきや、逆に訊ねられてしまった。いままでどんな時も凹まなかったソラがガックリ下を向く。リクの前だから、ソラも素直にそんな感情を出すんだなと思った。
落ち込んだソラへ、リクは笑って大丈夫だと言った。
「心配するなよ。俺たちで捜せばすぐに見つかる。俺たちは、外の世界に出られたんだぜ。もうどこへだって行けるんだ」
リクは楽しそうに語っていた。まるで、いまの状況がとても喜ばしいかのように。
「カイリを見つけるなんて簡単さ。そうだろ、ソラ。ぜんぶ俺に任せろよ。そうすればすぐに――」
リクの言葉の途中で斬る音がして、みんながソラを見た。リクを狙っていたらしいハートレスを、ソラが倒したようだった。
リクがまじまじとキーブレードを見ている。ソラは誇らしげにそれを肩にかついでポーズをとった。
「誰にまかせるって?」
「ソラ、おまえ――」
「俺だってリクとカイリを捜してたんだ。フィリアと、このふたりといっしょに」
「いっしょに――」
紹介されたドナルドとグーフィーが頷く。リクから笑顔が消えて、雰囲気が変わった気がした。なんだか落ち着かなくて、ソワソワと両手を胸の前で組んだ。
ドナルドが得意顔で咳払いした。
「え〜我々は――」
「4人でいろんな世界をまわってるんだ。あちこち」
ソラがさっさと言う。ドナルドがぷりぷりしていたが、おかまいなしだ。
「へえ。おまえが? 信じられないな」
リクが疑い、グーフィーが答えた。
「ソラは、キーブレードに選ばれた勇者なんだ」
「そうは見えないけど」
ドナルドが腕組みをして茶化す。先ほどの仕返しだろう。けれど、ソラはムッとしたようで「なんだと!」とドナルドを睨み返した。
キン、と涼やかな音が鳴る。一瞬でソラの手からリクの手へキーブレードが渡っていた。ソラ以外の人がソラのキーブレードを持っている姿は初めて見た。
リクはキーブレードを持ち上げ、興味深そうに観察していた。
「キーブレードって、これか?」
「あれ? あ! 返せって!」
気づいたソラが慌てて取り返そうとするも、リクがスッと避けてしまい、ソラはドテンと派手に転ぶ。
「リク、いじわるはダメだよ」
「こいつが飛びかかってくるからさ」
ホラ、とリクがソラへキーブレードを投げた。ソラは両手で受け止める。
「そうだリク。おまえもいっしょに来いよ! 俺たち、すっげえ船に乗ってるんだ。特別に乗せてやるって」
リクが共に来てくれることを当たり前のように思っていたので、ソラの誘いにハッとした。そういえば、リクは一緒に来てくれるだろうか。
グワ! 誰よりも先にドナルドが飛び上がってソラを止めた。
「そんな勝手に!」
「いいだろ?」
「危険な旅なんだぞ!」
「ドナルドだって見ただろ! リクだってハートレスをやっつけられる!」
「人が増えるほど世界への干渉リスクが高まる。これ以上はだめ!」
あぁ、と頭を抱えた。ドナルドたちには、もっと事前にお願いしておくべきだったのだ。リクが気まずくなければいいのだけれど……。
心配でリクを見ると、彼の背は遠くにあり、ちょうど街角へ消える寸前だった。後ろでは気づいていないソラとドナルドが「なんでだよ! せっかく会えたのに!」
「だめったら、だめ!」と言い争っている。
「リク、待って――きゃあっ!」
リクを追いかけようとしたとき、バタバタバタッ! と目の前がいきなり黒くなったので悲鳴をあげた。カァ! と叱りつけてくるような鳴き声。野鳥のカラスだろうか。追い払おうと目をかばいながら手を振るも、しつこく目の前でカァカァ鳴いた。
「フィリア! 大丈夫か、シッ! シッ!」
慌ててソラがキーブレードでカラスを追い払ってくれたので、ケガなどはしなかった。けれど、リクの姿は完璧に見失ってしまっていた。
「リクは……?」
「あれ?」
グーフィーも首をかしげる。ソラも周囲を見回してリクを捜していた。ドナルドはイライラとした様子で足をパタパタさせていた。
「リク――?」
ソラの声が三番街にむなしく響いた。
本当は幻だったのではないか。そう思うほどに、リクは唐突に現れ、唐突に消えしまった。
「なんだよ――ま、いっか! リク元気だったし」
ソラが腕を頭の後ろに組んで笑っているけれど、こちらは到底笑えるような気持ちにはなれなかった。
「リクに会えたんだ。カイリにだってきっと会えるよな!」
「せっかく会えたのに……」
ぼたぼたと涙が落ちた。仲間三人がぎょっと焦るのが分かったが、堪えることなどできなかった。
「フィリア、泣くなよ。きっと、すぐにまた会えるって」
「だって、私、待ってって、言ったのに……やっと、無事に会えたのに……!」
うええん、と小さな子どものように泣いた。おろおろ慰めようとしてくる仲間には悪いが、ソラの胸を借りて大泣きした。
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