シドの言う通りに3番街へ来たはいいものの、指定された場所には暗い炎の絵が描かれた扉があるのみだった。

「いやこれ、扉――だよな?」

 ソラがキーブレードを出すが、すぐに諦めてしまいこむ。扉にはノブもなければ、鍵穴もないため開くことができなかった。ノックもしたが返事もない。

「燃えていない炎の絵。炎を点ければいいんじゃないかな」
「点けるって、どうやって」
「――炎よ!」

 本来ならばやってはいけないのだろうが、この時はなぜか不思議と魔法を使うことが正しいことだと直感していた。木でできた扉は予想どおり燃えず、魔力は炎のマークに吸い込まれ、赤々と輝きだした。魔法の力を得た扉はひとりでに開き、中へと招き入れてくれた。

「とことん、不思議なところだね」

 ドナルドがグワァ……と鳴いた。
 扉の先は暖かな明かりの灯る部屋などではなく、湖に満たされた薄暗いほら穴みたいな場所だった。湖の中央に浮島がぽつんとあって、そこにとんがり帽子の形の屋根をした家が鎮座していた。クネクネとヘンテコな煙突を生やしている。
 家までの道は、湖に浮かぶ、動く飛び石が繋いでいた。何度も落ちそうになりながら、こぢんまりとした家にたどり着く。荒廃していて、ゴミだらけ。誰の気配もしない。この本は誰に届ければよいのだろう。

「ここから、中に入れるぞ」

 家の壁に派手に空いていた穴から、ソラが侵入を試みる。うっすらホコリが積もっているだけで、やはり何もなかったし、誰もいない。





★★★





「なんだか、こういうとこってドキドキするね」

 どきっとして、振り向く。
 ここにいることなどない。ありえないはずなのに、短い赤い髪の少女――カイリがすぐそこに立っていて、ふふ、と微笑みをこぼしていた。何も答えられずにいるこちらに構わず、カイリは部屋の中に入ってきた。リラックスしていて、当たり前な顔をして。

「“秘密の場所”を思い出さない? ふたりで落書きした、あの洞窟……おぼえてない?」

 艶やかな唇が弧を描いて、大きな深海色の瞳が見つめてくる。
 いろんな感情がどっと溢れ、痛いほど胸が締めつけられた。無事でよかった。どれだけ会いたかったことか。どれだけ心配したことか。

「カイリ――」

 触れようと手を伸ばし、触れる前にグーフィーから名を呼ばれる。思わず彼の方へ振り向いてしまい、怪訝そうな表情をした仲間たちと目があった。どうしてそんな顔をしているんだ。やっとカイリに会えたのに――。

「えっ」

 もう一度カイリがいた場所を見ると、そこには何もなかった。積もったホコリさえも乱れていなかった。




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