一番街にあるシドの店へ戻る最中、ハートレスを追っ払いながら、大地のかがやきをぶら下げて眺めるソラが気になった。
「ねえ、ソラ。それ貸してくれる?」
「いいよ」
大地のかがやきを持ってみると、確かにただの石ころではない。微かな力の脈動がじんじん掌に伝わってくる。
「光を感じる」
とくん、とくんと心臓の音まで聞こえてきそう。持っているだけで誰かに寄り添ってもらえているようなぬくもり――安心感があった。なるほど、あのレオンがお守りとして扱うのも納得だ。
「気に入ったなら、フィリアが持ってていいよ」
ソラがそう言ってくれたので、しばし、これの持ち主となる。首からは下げず、ずっと手で持っていた。
さて、一番街へと戻ってきた。
シドの店には入ったことがあるし、介抱もしてもらったことがあるが、シド本人には会ったことがない。旅を始めるときに街の壁を壊し、直してもらったこともあるはず。
お礼を忘れずに言わなくては。緊張した面持ちで、ソラたちに続いた。
アクセサリーショップの店のカウンターに、腹巻をしたおじさんがいた。
「よう、おまえら。久しぶりだな」
飾らない様子で、シドがソラたちに挨拶している。こちらを見て「おまえは」と驚いていた。「はじめまして」と返す。
「ソラから、お世話になったと聞きました。ありがとうございました」
「いいってことよ。元気そうで安心したぜ」
突然いなくなったけど、ソラと一緒にいることはレオンたちから聞いていたと彼は笑った。
「ところでシド。これなんだけどさ」
ソラがもそもそとグミブロックを取り出して、カウンターテーブルの上に置いた。シドの瞳孔が開き、輝きだす。
「お! グミブロックじゃねえか!」
「うん」
「で、これ何?」
ドナルドとグーフィーが身を乗り出すと、シドは「はぁー?」と大声をあげた。
「おいおいおいおい! おめえらナビゲーショングミも知らないでグミシップに乗ってんのかっ! 星の大海をなめるんじゃねえぞ!」
なんだかよくわからないが、すごい迫力と剣幕である。全く怖気づいていないソラがずいとシドに詰め寄った。
「何も知らなくて悪かったな。何もしらないけどな、それでも俺たちは行かなきゃならないんだよ!」
そして、キーブレードを見せると、シドは驚きと憐みが混じった顔をした。
「おっと……すまねえな、てめえがそうだったのか。そうとわかりゃあ、手をかさねえわけにはいかねえな」
「たのむ」
シドはグミブロックを手で弄びながらニヤリと笑った。
「ナビゲーショングミってのはな、船につけると新しいルートが開ける、イカしたブロックだ。もちろんオレ様がつけてやる」
アクセリーなんかより、機械をいじくるほうが本業なんだと、とても嬉しそうだった。
「でもな、急ぎの仕事をかかえててな……届けものなんだけどよ……」
そう言われたら、もちろんソラは応えた。
「何を届けるんだ?」
「本だよ、本。だいぶ古い本でな、バラバラになりそうってんで持ちこまれて……ところどころページが破られてて元通りって訳にゃいかなかったが、なんとか直したのよ」
グミブロックの代わりに、今度は古ぼけた本が一冊、カウンターテーブルの上に置かれた。表紙がまっさらで、古く、薄汚れていた。
「てなわけでおまえら、ひとつこの本を届けちゃくれねえか? 3番街の先の屋敷だ。炎のマークが目印だぜ」
ソラがしげしげと眺めながら、古びた本を受け取る。すると、テロンテロンと奇妙な音が響いてきた。ソラの肩がビクッとする。
「な、なんだ」
「ん? からくり館のかねが鳴ってやがるようだな。かねを見物に行く前に、ちゃんと本を届けてくれよ。終わったら、3番街の家にきてくれ。ヤボ用でそっちにいるからよ」
シド、結局3番街に行くんじゃないか。ドナルドがぼやきを聞きながら、アクセサリーショップを後にした。
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