ある程度痛めつければ、クレイトンは止まってくれると思っていたが、願いは叶わず、ブリザドで彼の腕の一部を凍らせても、ソラがしたたかに彼の足を打ちつけても、クレイトンは止まらなかったし、正気に戻ったりもしなかった。
 クレイトンがこちらから距離をとり、ライフルの銃口を向けたまま動きを止めたため、思わずこちらも足を止める。すると、いきなり彼の背後の岩壁が崩れ、透き通るような青空が現れた。ターザンがハッと表情を険しくする。

「な、なんだ!?」

 みんなが警戒して身構えるなか、ターザンが高くジャンプしてクレイトンへ飛びかかった。けれど、クレイトンへ触れる前に、別の何かからバシッと叩かれる音と共に弾かれてしまう。クレイトンは動いていない。魔法なのかと疑ったが、魔力は一切感じなかった。

「ターザン、大丈夫か?」

 ソラが心配している最中、殴られたターザンを見て、狂ったように嗤うクレイトンの身体が宙に浮きだしたので、驚いて悲鳴をあげる。クレイトンはぐらぐらと揺れ浮かびながらライフルの弾を交換していた。その姿を見ていると、ふと、目が霞んだ気がしてしきりに瞬きをしたが、気のせいではないと確信し、指で示す。

「見て、クレイトンの足元。後ろの景色が歪んで見える」
「あそこに、何かいるんだ!」

 ドナルドが叫んだとき、ソラがとっさにキーブレードを斜めに構えた。

「――でかい!」

 透明な「何か」からの突進攻撃をリフレクトガードで受けたソラは、後退しつつも反撃に転じ、キーブレードで「何か」を三度殴りつけた。すると、透明な塊から巨大な緑色のカメレオンが姿を現し、とても長い舌を見せつけてくる。

「ハートレスだ!」

 グーフィーが盾で何度も押しやって、ソラから大物のハートレス――ステルススニークを引きはがす。ステルススニークはクレイトンを背に乗せたまま、また透明な姿に戻った。

「どうして。ハートレスは、人を襲うものではないの?」

 人に従うハートレスを見るのは初めてだった。クレイトンが、心を奪う闇の魔物を従えられるほどの人物だったなんて。
                                            
「今はそんなことを考えてる場合じゃないよ!」

 ステルススニークが動き出したため、ドナルドの叱咤に従い戦闘に集中しようと思考を切り替える。赤い火を輝かせて魔法より早くライフルの弾も飛んでくる。クレイトンの動きからも目が離せない。

「まずはハートレスをやっけよう。クレイトンのライフルに気をつけて!」

 ソラの作戦に従って、各々が得意な距離をとる。クレイトンが乗っているため、透明なのにステルススニークの位置はバレバレだった。ターザンが槍で突き、カウンターをされる前にソラが斬る。グーフィーが守ってくれるので、ドナルドと後方からファイアをたんまり送ってやった。ステルススニークがあばれるため、クレイトンのライフルの狙いも甘い。あっという間にステルススニークはまた姿を現して、しんどそうに舌を出した。

「もう少しだ!」

 ドナルドがファイアを放つ。それはクレイトンの足に当たって、クレイトンがぎゃあとステルススニークから飛び降りた。

「あっ」

 ステルススニークの姿がまた消える。クレイトンはもう己の足で歩きだして、木の裏に隠れてこちらを狙いだした。

「ターザン、クレイトンを頼む!」

 ターザンが素早くクレイトンを追う。このまま逃がしてしまったら大変なことになる。
 残った全員でステルススニークを探すも、今度はクレイトンという目印がなく、ハートレスには体温を感じないため、目視で探すしかない。きょろきょろと首を振ってあちこち見るが、なかなかに見つけられない。

「あッ!」

 ぎゅるりと足首に何かが巻き付いてきて、ものすごい力で引っ張られた。落ち葉を巻き上げる早さで地を引きずられる。直感で、ステルススニークの舌だと分かった。まさか、食べられる――!

「雷よ!」

 ソラの声だった。バリバリと音を立てて、周囲の地面に電撃が降り注ぐ。反射で目を閉じたとき、足の拘束が解けた。目を開いたときには、引きずられていた方向の先に、体じゅうから煙をあげて舌をのばしきったまま倒れるステルススニークがいた。

「フィリア、平気か?」

 ソラが助け起こしてくれたので、彼から感じるぬくもりに、腹の底から息を吐いた。手が少し震えている。言葉もなく、ただただ頷くだけで精一杯だった。
 キン、と耳を貫く音がして、ソラがアッと顔を右へ向かせ、彼を呼ぶ。

「ターザン!」

 ターザンは、クレイトンと向き合っていた。みんなで彼らの側に向かうも、決着をつけようとする、ふたりのつくる空間へ割り込めない雰囲気があった。
 先に動いたのはクレイトンだった。先ほど崩れた崖の方へ向かって走りながらライフルを撃ってきた。ターザンが追う。ライフルの弾が掠めても彼は速度を落とさなかった。

「来るな! このサルめ!」

 崖まで来ると、倒したと思っていたステルススニークがクレイトンを待っていた。クレイトンがフヒヒと笑う。ステルススニークの前まで来ると、クレイトンはくるりとこちらへ振り返り、ライフルの照準を改めてじっくりとターザンへ定めていた。太い指が、ゆっくりとライフルの引き金を絞る。

「これで、おまえはおしまいだ!」
「クレイトン、ダメだ!」

 ターザンの言葉は危険を知らせるものだった。撃つ前に、ふと、クレイトンが己にかかる影の大きさに気づき、後ろをあおぐ。ぐらっとステルススニークの巨体が傾き、クレイトンを押しつぶしてしまった。
 なぜ先ほどステルススニークを倒しきらなかったのかと後悔した。闇の生きものは、倒せば姿が消えるというのに。

「助けなきゃ!」

 しかし、みんなで助け出そうと駆け寄る前に、クレイトンは大きなハートを吐き出したステルススニークと共に消えてしまった。 




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