タークに導かれて、テントまで戻ってくると、岩壁の方で動物たちの悲鳴が聞こえてきた。ハートレスを率いて、クレイトンがライフルを撃ち、ゴリラたちを取り囲もうとしていた。
逃げ遅れていたメスのゴリラにクレイトンが銃口を向けた。カーチャックが守ろうとするのをハートレスが阻む。あわや撃たれるというところで、ソラが叫んだ。
「やめろ!」
クレイトンが素直に撃たなかったので、もしかしたら話し合いができるのかもしれないと、わずかに期待した。けれど、彼の顔を見て、すぐにそれは難しいと悟る。クレイトンの瞳は血走り、目つきはまともじゃなかった。あれほどキチッとしていた髪型はくずれ、しきりに歯ぎしりをしている。
「ゴ、リラ……ゴリラどもめ……」
「クレイトン!?」
ソラが強めに呼ぶも、もはや届いていないようだった。首を絞められているかのような声でぶつぶつと呟いている。
「捕まえてやるぞ。一頭300ポンドだ。はく製でもいい。一頭残らず売り飛ばしてやる……」
ゾッとして、とっさにグーフィーの後ろに隠れた。言葉を重ねるごとに、クレイトンから感じる不気味な気配が増している。彼は魔法も使わない、ただの人であったはずなのに、今や執念に憑りつかれた怨霊のような凄みがあった。
ソラがためらいながら、一歩彼に近寄った。
「クレイトン、どうしちゃったんだよ!」
「クレイトン、違う!」
途方にくれた声を出すソラへ、ターザンが隙なく槍を構えた。
「※&&×%!」
ゴリラ語で出会った時にも言っていた単語だ。意味は分からないが、彼は額に汗を浮かべて叫んだ。
「クレイトン、違う!」
「邪魔をするなァ!」
唾を飛ばしながらクレイトンのライフルがソラへ向けて放たれた。銃弾はがソラの横を通り過ぎ、岩壁にガツッと穴をあける。
ハートレスたちがわらわらと集まってきて、クレイトンを守るようにこちらと対峙してきた。
「戦うしかない!」
ドナルドが杖を構え、ソラもキーブレードを握った。グーフィーまでもが盾で身を守っているなか、まだ、ひとりためらっていた。一時とはいえ、仲間として共に行動していた相手と戦うことが悲しくて、どうにか彼を正気に戻せないか考えていた。
乱闘はすぐに始まった。ハートレスからの攻撃を躱し、魔法を放つため足を止めたとき、ソラがタックルする勢いで押し倒してきた。したたかに身体を地面に打ち涙目になる。クレイトンのライフルの弾が、先ほどまで立っていた場所を撃ちぬいていた。
狂ってしまったクレイトンを見て、やるせない気持ちでいっぱいで、たまらなくなった。
「ソラ。クレイトンさんと戦うしかないの?」
「クレイトンは、俺たちのことも殺す気だ。俺たちのことが分からないんだ」
ソラがすばやく立ち上がる。クレイトンは意味不明な雄たけびをあげながら、今度はターザンにライフルを向けていた。
「フィリア。クレイトンを止めよう」
そう言うソラの瞳には怯えも迷いもないのに、深い思いやりが宿っていた。このままではゴリラたちが皆殺しにされてしまうのだ。罪もないターザンの家族や仲間たちが。だから、自分たちが手を汚してでも、いま彼を止めなければならない。
「わかった……」
唇を噛み、やっとクレイトンと戦うことを決意する。
それでも、ソラがキーブレードの勇者にならなければ、彼がこんな残酷なことをしなくて済んだのに、と思った。
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