この短期間で、ジャングルの中をこれほどうろつけば、ツタをぶら下がっての移動も、嫌でも慣れるというものだ。
 垂れ下がるツタを飛び回り、大樹の空洞までたどり着いたとき、ターザンを呼ぶ女の声がした。ジェーンだ。大樹の家でクレイトンに狙われていたゴリラと一緒に、ツタが幾重にも重なった隙間の中に閉じ込められていた。アリスと出会った世界の裁判で、ドナルドとグーフィーを閉じ込めた牢を思い出す。

「助けて!」

 ターザンがツタを槍先で切り裂こうとしたとき、それを阻むかのようにハートレスたちが現れ乱戦となった。
 ファイアを飛ばすと、炎を纏ったハートレスがツタにぶつかったが、ツタは燃えるどころか焦げあとひとつ残っていなかった。目を数度瞬かせて、あっと思い至る。あれが普通のツタならば、武器を持っていなくても、ジェーンたちだって自力で脱出できるはずだ。

「ソラ、あのツタ切れる?」

 戦いの中、ソラが試し切りをしてくれたが、びくともしなかった。まだ鍵穴のかけられた牢の中であったほうが、キーブレードで開けられる分、楽である。

「ジェーン! どうやってその中に閉じ込められたの?」
「知らないわ!」
「そんなぁ!」

 ドナルドからも困りきった声があがる。ジェーンはツタの隙間からほっそりとした腕を出して、大樹の空洞の上層を指した。

「でも、あの大きな黒い実が怪しいわ!」

 確かに、まるで闇を吸い込んで成長したかのような、巨大な黒い実がぶらさがっていた。ジェーンが捕らえられる前まではなかったものだ。ターザンの身長よりも大きく、黒光りする皮はかなり堅そうだ。

「よし、みんな、あの実を叩くぞ!」

 ソラの掛け声で、ハートレスを退けつつ、全員で実を攻撃しはじめた。もはや植物なのかも怪しい実はキーブレードや槍を弾き、炎を弾いてくる。油断しているとハートレスに腕を掴まれたり、転ばせられるので、うかうか上ばかり見てもいられない。
 けれど、ソラが実にヒビを入れてからは早かった。更に攻撃を加え続けたところ、実が砕け、ジェーンたちを捕まえていたツルもボロボロと崩れ去り、ハートレスたちもいなくなった。
 ターザンがジェーンへ駆け寄る。一緒にいたゴリラはターザンの友達だったようで、こちらを見てもう怯えたり、逃げようとはしなかった。
 ジェーンは顔色が悪く、疲れ切っているようだった。

「ジェーン、大丈夫?」
「ええ。ありがとう。助けてくれて」

 ふらっとよろめくジェーンをすかさずターザンが支えた。

「俺たちのいない間に、何があったんだ?」

 ソラの質問にどう答えるべきか、ジェーンは困惑しているようだった。

「クレイトンさんがテントに来て、それから先は、よくおぼえてないの――」
「クレイトン!?」

 テントの荒れようからして、クレイトンがジェーンに危害を加えようとしたことは疑いようもない。
 意見が合わなかったのは確かであるが、心配し、探していた人物の豹変ぶりに頭がついていかない。
 みんなの表情が暗く険しくなってゆく横で、ターザンがゴリラとゴリラ語で話していた。彼女にはタークという名があるらしい。

「ターク逃げてきた。みんなつかまった」
「ゴリラを助けなくちゃ!」

 誰よりも大きな声で、ジェーンが言った。
クレイトンがゴリラを傷つけようとしているのなら、止めなければならない。クレイトンはライフルを持っているはずだ。彼はハートレスではないが、戦わなければならないのだろうか。
 先ほどの顔色の悪さはどこへやら。タークが導く方へ、ジェーンが誰よりも早く続いて走った。みんながゴリラを守る使命感に燃えているなか、先に待ち受けている不安に押しつぶされそうだった。




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