竹林の中央には広場のように開けた場所があって、大人が腰掛けるのにちょうどいい岩があった。

「あの岩の上、何かある」

 ゴリラたちを助けていたときには何もなかったはずのところに、茶色くて、手のひらに乗るくらいのものがポツンとあった。ソラが「クレイトンのパイプだ」と答えた時、ひゅっと影が頭上を横切る。サボーだった。
 出会った時と比べて毛並みは乱れ、眼は充血している。きっとこれが最後の戦いとなるだろう。三度目であり、動きも覚えた。恐れは初めほど感じなくなっていた。

「ぅおおおおおっ!」

 まるで獣のような声をあげたターザンがサボーに飛びかかる。サボーの牙とターザンの槍の柄が噛みあって、地面をごろごろ転がった。ターザンがサボーにのしかかられたところで止まり、すかさずソラがサボーの横腹をたたく。ヨダレを垂らしながら、今度はソラに噛みつこうとしていたため、ドナルドと一緒にファイアを唱えた。耳と口元で炎が爆発したサボーは白目をむくも、それでもこちらへ向かってきたのでグーフィーが盾で守ってくれた。盾で牙を弾かれたサボーへ、再度ソラとターザンが斬りつけた。
 サボーの唸り声はか細くなり、青空を仰いだあと、ばったり動かなくなった。動物を倒してしまうのは初めてで、怖くなったが、倒さなければこちらが食われる。倒すと消えてしまうハートレスとは違う、生々しい手応えに吐息が震えた。

「サボー、クレイトンの匂いする。クレイトンいない。クレイトン、逃げた」

 サボーの死体を嗅いだターザンの言葉で、ほんの少しほっとするも、彼がライフルの次に手放さないであろう嗜好品であるパイプを置き去りにするなんて、やはり何かがあったとしか思えなかった。

「ジェーンのところに戻ろう」

 これ以上手がかりもない。みんなでテントの側まで戻ってくると、先ほどとは様子が違っていた。ハートレスもいなければ、動物たちの鳴き声もしない。静かすぎる。
 テントの入口の幕を覗いたソラが、中に入りきる前に足を止めた。

「あれ、ジェーンがいないぞ……?」

 もぬけの殻のテントを見渡し、みんなで顔を見合わせる。戦えない彼女がひとりでジャングル内を歩き回るとは思えないし、ハートレスが現れだしたこのタイミングでいなくなるのは、嫌な予感をかきたてた。

「ジェーンのことだから、ゴリラのことで何かあったのかな」

 テントの床には見たことのないゴリラらしき足跡があり、映写機が倒れていた。デリケートに扱わなければならなそうな映写機を立て直す暇がないほど、状況は切羽詰まっていたのだろうか。
 ターザンがしきりに周囲の空気を嗅ぎだして、ゴリラ語で何かを口走った。グーフィーが彼の顔をのぞきこむ。

「どうしたの、ターザン?」
「しらないにおいする。ジェーン、あぶない」
「ターザン。ジェーンがどこにいるのか分かるか?」

 ターザンが目だけをソラに向ける。

「きのうえのいえのほう、ジェーンのにおいする」
「なんだか分からないけど、とにかく急ごう!」

 今度はソラより先にドナルドが駆けだした。先ほどクレイトンに狙われていたゴリラを助けるときも一番に駆けていたし、彼はなんだかんだ言いつつ、とても優しい。

「……こわい」

 ジャングルを駆けながら、きっと言ってはいけないけれど、胸に抱え続けるのも辛くて、せめて誰にも聞こえないように声を絞って呟いた。
 平和な世界だと思っていたのに、ハートレスが現れ、クレイトンに続きジェーンまで行方不明になった。これからまだまだ不気味なことが起こりそうな予感がして、正直、怖くて怖くてたまらない。
 こっそりと、横を走るソラを見る。迷いも恐れもないまっすぐな瞳。ジェーンを助けなければならないのに、自分が怖がっていると知られたら置いて行かれてしまうだろうか。ソラの側にいられなくなるのは嫌だった。
 奥歯を噛みしめ、恐怖する気持ちを押し込めて、前方を走るドナルドの丸くてふわふわのお尻を追いかける。もうだいたいの道を知り尽くしたはずのジャングルの中は、日の光の差し込み具合が変わったのか暗く、まるで闇が口を開いて誘っているかのように見えた。




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