「クレイトンさん、なんてことしたの!」

 予想以上の大声に驚いて、思わず耳をふさいでジェーンを見た。普段は明るく元気な彼女から怒りに満ちた剣幕で詰め寄られて、さすがのクレイトンもたじたじになっている。

「だから誤解だよ。ミスジェーン」
「いい? あなたは二度とゴリラたちに近づかないで!」
「そんな、たかがゴリラ一頭に大げさな――」

 たかがゴリラ一頭。その言葉だけで、彼がどういう人か理解できた。
 みんなで睨むと、クレイトンは「くそッ!」と悪態をつきながらテントを出てゆく。テントの入り口の幕が降りると、ジェーンが大きなため息をついて、肩を落とした。

「クレイトンさんは、私のボディガードとしてここへ来たの。けれど、あんな人だったなんて……」

 ぞわりと背すじが凍るのと、銃声が響いてきたのは同時だった。ハッと口を噤んだジェーンがおそるおそるテントの入り口を見やった。

「今のはクレイトンさん? 何かあったのかしら」
「見てくる」

 ソラがテントを飛び出したのを追いかけると、ハートレスが一頭のゴリラを取り囲んでいた。サルの姿をしたハートレス達は腕をぶんぶん振り回して、殴りかかるぞ、と脅しかけている。

「こいつら、この世界にもいたのか!」

 ソラのキーブレードに気づいたハートレスたちがこちらへ襲い掛かってくる。つい先ほどまでなかったからこそ分かる、闇が湧き出てうごめく気配。この世界は光に溢れていたはずなのに、どうして突然、これほど闇が現れだしたのか不思議だった。

「きゃっ!」

 考え事をしながら戦っていたので隙があったらしい。ハートレスに足をひっかけられて、地面にうつ伏せに倒れこんだ。それから間髪いれずに抱きかかえられたと思ったら、その相手もハートレス。しかも、そのまま走り出したので仰天する。思わずソラへ助けを求めた。

「ソラ!」

 呼び声に気づいて仲間たちがこちらを見るも、それぞれハートレスと戦っていてすぐに来られないようだった。ハートレスはまっすぐに、ジャングルの草木生い茂る闇の方へ走ってゆく。このまま闇の魔物に攫われたらどこへ連れていかれるのだろう。ゾッとし、慌てて魔力を込めた。

「離してっ」

 がむしゃらに放った魔力からバチッと小さな雷が生まれ、ハートレスの腕からこぼれ落ちる。けれど、まずいことに木の上に飛び乗ったところであったため、頭からまっさかさまに地面へ落ちた。

「あいたたた……」

 ゴチッと頭をぶつけるかと思ったら、暖かいものに包まれていたのでそれほど痛みはなかった。目を開けば、グーフィーが受け止めてくれていた。彼は土埃にまみれたことなど全く気にしない様子で、にっこり微笑んでいる。

「あぶなかったねぇ、フィリア」
「あ、ありがとう。グーフィー」

 にこやかな笑顔と朗らかな口調、温かくて大きな手で頭を撫でられると、冷や汗をかいていた気持ちが穏やかに落ち着いた。残ったハートレスを蹴散らしながら、ソラやドナルド、ターザンもすぐに駆けつけてくる。

「フィリア! グーフィーも。大丈夫か?」
「うん。ちょっとびっくりしたけれど……」

 無事を伝えると、ソラも胸に手をあててほっとしていた。自分の落ち度で心配をかけてしまって申し訳ない気持ちになる。せめて、うっかりソラたちから離れてしまうことがないようにしようと反省した。

「とりあえず、この周辺にいたハートレスは倒したな。もう安心だぞ」

 ソラがキーブレードをしまいながら、襲われていたゴリラへ伝えると、彼(?)は、グミブロックをターザンに渡し、ジャングルの中へ走り去っていった。ターザンはそれをそのままドナルドへ渡す。

「やっぱりグミブロックだ。これがあるってことは、やっぱり王様はゴリラの巣に……?」

 グミブロックを懐にしまいながら、ドナルドが呟いた。けれど、王様がゴリラたちへグミブロックを渡す理由が思いつかないようで、しきりに首をかしげていた。
 クレイトンの姿もないため、ひとまずテントに戻りジェーンに状況を説明すると、彼女は顔を青くしてソラの手を掴んだ。

「ゴリラが襲われているのね? 他の場所にいるゴリラたちも心配だわ!」
「ああ。ターザンの家族だもんな」
「ゴリラは用心深いからみんな、やっつけてあげてね!」

 そうして彼女に頼まれるまま、樹上の家、岩壁、バンブースポット、大樹の空洞と、冒険したことあるエリアをすべて見回ることになった。動物たちの楽園であったジャングルは、どこにでもハートレスが暴れまわる世界になってしまっていて、彼らはゴリラたちを追いまわしたり、取り囲んだりしていた。

「ゴリラ以外の動物は、襲われていないみたい」

 カバや鳥など他にもたくさん動物はいるのに、ハートレスに執拗に狙われているのは、どこへ行ってもゴリラだけだった。

「そういえばそうだな。どうしてだろう」
「偶然じゃないの?」

 ソラが腕を組んで一緒に考えてくれたが、ドナルドはスタスタ先へ行ってしまう。彼の頭の中はグミブロックと王様のことでいっぱいらしく、ゴリラたちを助け出すごとに渡されるグミブロックはすでに彼のポケットに入りきらないほどになっていた。
 ジャングルじゅうのゴリラたちを助け出した後テントに戻ると、ジェーンがねぎらいに飲み水を配ってくれた。

「そういえば、クレイトンさんには会った?」
「いや、見てないな」
「ボクたち、あちこち見回ったのにねぇ」
「また、ゴリラを銃で狙っていなければいいけど」
「サボーもまた来るかもしれないし、ちょっと心配だね」

 いくらクレイトンがゴリラたちに対してひどい人でも、ケガをしたり、死んでしまってはかわいそうだ。
 ジェーンがテントの出入り口を見つめた。

「クレイトンさんも無事だといいんだけど……」

 その時、まるでその言葉に答えるかのようなタイミングで銃声が響いてきた。竹林の方向からだ。

「あんなやつだけど、放ってはおけないよな」

 ソラがキーブレードを肩にかついでテントを出ていく。ドナルドは「放っておけばいいのに」と呟きながらもソラに続く。なんだかんだ言いつつ放っておかないドナルドに微笑みながら、自分もグーフィーと頷きあって外へ出た。




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