ヴェントゥスがフィリアたちと共にシンデレラの部屋に戻ってくると、ドレスはほぼ完成していた。

「わぁ、すごい!」

 ドレスを見てフィリアが大きな歓声をあげる。自分たちが見つけてきたリボンやレースはドレスの襟元や胸元を華々しく飾っていた。

「俺たちも何か手伝うよ」
「じゃあ、この真珠を使ってネックレスを作ってくれ。他の真珠はあっちにあるよ」
「わかった。フィリア、行こう」
「うんっ」

 ジャックの指した場所の元へ真珠の球を持って走った。そこには大小様々なサイズの真珠が置いてあって、丈夫そうな糸もある。

「バランスを考えて、中央に一番大きな真珠がくるように作らなきゃ。まずは大きさを仕分けよう」
「おう」

 フィリアと手分けして真珠の大きさを量り始める。結構な数があるので意外と骨が折れる作業だ。

「舞踏会かぁ……」
「ん?」

 頭くらいの大きさの真珠をごろごろ転がしながらフィリアが熱っぽいため息をついた。その様子はまるでさっきのシンデレラのようだ。そういえば昔いっしょに絵本を読んだとき、フィリアは舞踏会に興味深々な様子だった――特に、ドレスとごちそうに。

「シンデレラ、舞踏会で王子さまと踊るのかな?」
「えっ、王子さま!?」

 予想だにしていなかった単語に思わず大きな声で聞き返した。するとフィリアがこちらを見てこくりと頷く。

「さっきねずみさんたちが話していたの。シンデレラが行くのは、王子さまが花嫁を選ぶための舞踏会なんだって」
「花嫁……」
「王子さまって絵本に書いてあったように、強くて優しくてかっこいいのかな……ヴェンはどんな人だと思う?」

 フィリアが微笑みながら訊いてくる。どうしてだろう。大好きな笑顔のはずなのに――ものすごく面白くない。

「……フィリアも舞踏会に行って、王子さまと踊りたいのか?」

 心臓の鼓動が痛いほどに早く大きくなっていた。質問しておきながら、もし頷かれたら自分はどうするのだろう?
 こちらのそんな心境に気付きもしていないフィリアは、真珠を持ち上げながらにこりと笑った。

「ううん、私はいいよ。確かに舞踏会は見てみたいけど……今はテラを探さなきゃ」

 「違うよ、そういう意味じゃなくて」……と言う前に、ジャックがこちらにやってきた。

「二人とも、もうすぐ時間だ。急いでくれよ!」
「うん、りょーかい!」

 元気に返事を返すフィリアの後姿を見ながら、自分の中に渦巻いている複雑な思いに眉を寄せた。もしフィリアではなくアクアだったとしても、こんな気持ちになったのだろうか。

「ヴェン、急ごう!」
「あっ、ああ……」

 仕分けは終わった。後は真珠を糸に通すだけだ。
 答えが見つからない疑問をひとまず放置して、ヴェントゥスは作業に集中することにした。





★ ★ ★





 フィリアたちが仕上げたドレスを部屋の衝立に隠したとき、やっと仕事から解放されたシンデレラが帰ってきた。
 予定の時間ギリギリだ。疲れた様子のシンデレラは窓から城を見つめていた。

「準備はいいかい?」

 衝立の下でジャックが小声で訊ねてくる。

「いつでも」

 期待で胸が高鳴っている。シンデレラが喜ぶ顔を想像しながらジャックに同じ声量で返事をした。

「よし。じゃあヴェン、頼むよ」

 ヴェントゥスがジャックに頷く。

「シンデレラ!」
「……?」

 シンデレラがこちらを向く。それに合わせて一気に衝立を押し開いた。月光に照らされながら見事なドレスが現れる。

「私の……?」

 ドレスを見てシンデレラが驚愕の声をあげる。

「俺たちからのプレゼント! これで舞踏会に行けるだろ?」

 しばらくポカンとドレスを見つめていたシンデレラがこちらへやってきて、そっと手を差し出した。ヴェントゥスと一緒に乗ると、シンデレラの胸の高さまで持ち上げられる。

「気に入ってくれた?」
「ええ、とても……!」

 訊ねると、シンデレラが今にも泣き出しそうな笑顔になった。

「夢を見てるみたいだわ。ありがとう……!」
「急いで! 舞踏会が始まっちゃう!」

 もう片方の手に乗っているジャックがシンデレラを急かす。

「本当に、ありがとう!」





★ ★ ★





 ドレスを着たシンデレラは、彼女自身の美貌も相まりとても美しく変身していた。
 トレメイン夫人たちを追いかけてシンデレラが部屋を出て行った後、残されたヴェントゥスたちは窓際に座り、のんびりと城を眺めていた。
 先程まで静まり返っていた城へたくさんの馬車がやってきているのがここからでもよくわかる。きっともうすぐシンデレラもあそこに着くだろう。

「シンデレラの夢、叶うかな」

 期待と不安が入り混じった声でジャックがポツリと呟いた。

「……叶うよ。ジャックはシンデレラががんばってきたのをずっと見てきたんでしょ?」

 フィリアの言葉にジャックが頷く。

「二人の夢はどんなのだい?」
「え……?」

 いきなりの質問に言葉が詰まった――とても、とても大切なことを忘れていたような気がしたからだ。
 先にフィリアがジャックに答えた。

「私は、友達の夢が叶うこと」
「人の夢が叶うことがフィリアの夢なのかい?」
「うん。今、一番叶ってほしいことだから……変かな?」
「変なんかじゃないさ。ヴェンは?」
「俺はー……」

 二人の視線がこちらへ集中するのを感じながら空を見上げた。思い出されるのはあの日の出来事――そういえば、あの時もこうやって空を見ていた。

「俺、そんなの考えたこともなかった……でも、今わかった」

 手を差し出し望むだけでキーブレードが現れる。あの時のはよくわからなかったけれど今ならわかる。“これ”が自分たちの夢だ。

「俺の夢は、キーブレードマスターになることだ」
「ヴェントゥス……」

 隣に座っていたフィリアが、小さく自分の名を呼んだ。
 ジャックが再び星空を見上げる。

「そっか。叶うといいな、その夢」
「信じていれば夢は叶う。だろ?」

 シンデレラの言葉を借りてそう言うと、二人が満面の笑顔で頷いた。





 To be continue... 




執筆:2010.3.3
修正:2011.1.19




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