悲鳴、怒号、泣き声――混乱渦巻く人々の中に飲み込まれ、右往左往していた。
 コロシアムに巨大な魔物が――みんな食われてしまう――選手が魔物と戦っていた――ちらほら聞こえてくる情報に、ソラたちのことを思った。まさか巻き込まれているのではないかという想像と、キーブレードという存在。勇者という称号を背負わせられたソラが、この混乱と無関係でいられるのだろうか。ソラの性格から、放っておこうなどと思うはずがない。きっとコロシアムにいるはずだ。ドナルドとグーフィーが一緒にいるとはいっても、ケガなどしていないだろうか。
 彼らが心配なのに、一度グミシップに戻るという判断はない。人の流れに逆らって、きっとソラたちがいるコロシアムへ走り出した。





★ ★ ★





 闇のブレスをどろどろと吐いた、ケルベロスの臭い口のかみつきを避けて、右の顔の鼻づらへキーブレードをたたきつけた。キャン!と子犬のような鳴き声をあげて、右側だけが涙目になる。すると、真ん中の顔がぐっとこちらを向いたので、噛まれる前に牙を叩いた反動で後方へ逃れた。
 キーブレード持っていない左腕で額を擦ると、汗で手袋がびっしょり濡れた。戦い始めて、まだほんの少しの時間しか経っていないはずなのに、緊張と疲労でもうヘトヘトだった。ドナルドとグーフィーも険しい表情で、たまに足元をふらつかせていた。
 あとどれくらい戦えばいい。攻撃しても一向に効いてない様子に少し焦り始めていた。長丁場になれば、こちらが必ず負けるだろう。
 ケルベロスがひときわ大きなうなり声をあげて、天を仰いだ。口元にたくさん闇を蓄え、一気に地面へ流し込む。始めは何をしているのかといぶかしんだが、自身の足元から闇が水たまりのように広がったのに気づき、慌ててドッヂロールで回避した。着地した先にまた次の闇の水たまりが現れ追いかけてきて、地面をどんどん闇で染めてゆく。闇の水たまりから立ち上る炎みたいな黒いもやは、触れたらどうなるのか想像もしたくない。

「ソラ!」

 グーフィーに呼ばれたとき、やっと追撃がおさまった。見やれば、ケルベロスの左頭の犬が口から泡を吐き気絶している。その頬にはちょうどグーフィーが持っている盾と一致する凹みがあった。

「僕だって!」

 ドナルドが杖を振りかざす。その杖先から噴出されたいつもより大きめの炎を鼻先をぶつけられた右側の犬の頭は悲鳴をあげて気絶した。残るは真ん中の頭1つ。怒り狂った目と視線があった。
 決着をつけよう。
 キーブレードをぎゅっと握り直し、力を振り絞ってジャンプする。ケルベロスが口を大きく開けて迎えうとうとしていた。よだれにまみれた牙が眼前に迫る。一か八か。キーブレードを突き立てるように持ち替え、ケルベロスの牙に思いっきり刺した。ギギギと耳に痛い事を立ててキーブレードがケルベロスの牙にほんの少し突き刺さる。ヒビはみるみる広がり、牙の根元まで走り、大きな亀裂となる。びっくりしたケルベロスは、突然逃げ腰になり、激しく首を振ってこちらを突き放すと、背を向け走り出した。壁にぶつかるのかと思ったその姿は直前で幽霊のように薄くなり、まるで存在していたのが嘘だったかのように、黒い巨体は完全にどこかへ消えてしまう。冥界へ帰ったのか。追い払った。勝利だ。

「よくやった坊主!」

 客席の隅からフィルの声が聞こえる。

「俺たち……勝ったんだ!」
「やったぁ!」
「僕たちが力を合わせれば、当然だよぉ」

 途端に体に喜びと力が戻ってきて、そのままそれぞれにへたりこんでいた仲間たちの元へ走り、戦いの勝利を分かち合った。





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