キーブレードの小僧たちは、やられちまえばいいのに三回戦も無傷で勝ち進んだ。

「あのガキが決勝の相手だ。必ず始末するんだぞ」

 先ほど雇った男に命令すると、チラッとこちらを見てはすぐにそらし、マントに隠れた口からボソボソ喋った。

「死者の国の神 ハデスが子供を恐れるのか? 悪いが俺の契約は――」
「ああそうとも! おまえの契約は大会本戦でヘラクレスの息の根を止めることだ。だが本戦に出るにはどのみちあのガキと戦うんだろ?」

 こいつ――クラウドとかいったか――先ほど街でハートレスを倒しているところを見かけ声をかけた。珍しく見所がある奴だが、あの目障りなヘラクレスを倒せるかは分からない。せめて、あの子どもくらいは倒してもらわないと。
 ヤギおやじにあーだこーだ言われ頭をかいている少年を見やる。まだ幼い。いくら素晴らしい武器を持とうが使いこなせている感じはないし、簡単につぶせるだろう。

「あのヤギおやじもこう言ってる。『ルール11これは試合(ゲーム)だ結果を気にせずぶちあたれ』」

 つまり、相手が死んでもかまわないってことだろ。

「ゲームの結果≠ェどうなろうと気にするこたァない」

 この冥界の王のパンチまで見せたってのにクラウドは何も返さず、ゆっくり去って行った。ノリが悪く、どこか甘さを残したヤツだ。予備策が必要だろう。

「フン。亡者より陰気な奴め。まあ、ゲームのコマとしてはあれくらいがちょうどいい――」

 手駒は他にもある。まずはあの男でせいぜい楽しませてもらおうか。





★ ★ ★





 ハートレスからやっと逃げ延びたのに、すっかり迷子になっていた。
 今いる場所で分かることは、ここはどうやら町外れで、誰も近寄らないような崖の隙間であることだけだ。コロシアム周辺ではたくさんの住人たちを見かけたが、近くを飛ぶ鳥すらいない。

「ここ……どこ?」

 疲れてきって、その場に座り込んだ。顔を膝に埋め深くため息をつく。
 どうしてこうなってしまったのだろう。再び暗い気持ちに囚われそうになっているのに気づき慌てて首をふる。またハートレスに囲まれてしまったら大変だ。

「あの人、大丈夫かな」

 さっきの銅像にあったように、まるで英雄みたいな強さだった。無関係の自分を助けてくれたのだから優しい人なのだろうけど、そっけない態度。誰かに似ていると思ったが、誰だったか……。先ほど浮かんだ誰かを思い出してみようと試みる。

「あ、レオンさん――かな」

 ぐにゃりとビジョンが歪んだが、口に出してみるとそうかも、と納得できた。ひとりでいると独り言が多くなる。
 レオンをきっかけにトラヴァースタウンでのことを次々と思い出した。賑やかなユフィに綺麗なエアリス。あのときのサンダガが使えていたら、先ほどのハートレスたちだって倒せたかもしれない。

「ハートレスに狙われているって……」

 エアリスたちから指摘されたことを、これまで真剣に受け止めていなかった。
 ソラはキーブレードを持っているから狙われてしまう。なぜキーブレードがソラの手にあるのかは知らないけれど、剣に選ばれたから、狙われている。なら自分は? 特別なものなど何もない。ただ、魔法が少し使えるだけ。
――やはり、自分の過去に何かあったのだろうか。膝を抱く腕に力がこもる。
 失われた記憶のことを思うと、普段目をそらしている深淵を覗くような気分になった。知るのが怖い。過去に何があって、どうしてソラたちの世界へ流れ着いたのか。知ってしまったらソラたちの側に居られなくなってしまう気がする。居てはいけないと思ってしまう気がする。

「ソラ……リク、カイリ」

 はやく、あいたい。
 ジャリッと砂が踏みしめられる音がして、ビクッと顔をあげる。ひとりの人影がこちらを見つめていた。黒いコート。フードまできっちり着こんでいるので髪の色や年齢などはわからないが、体格から男性なのは見て取れる。この世界では初めて見る格好――直感的にこの世界の住人ではないと思った。

「あっ、待って!」

 しばしの間があったが、彼が唐突に彼が踵を返し歩き始めてしまったので、こんな場所でひとりでいるよりはと追いかけた。




原作沿い目次 / トップページ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -