世界の扉の前でレオンとユフィ、エアリスと向き合っていた。出会ったばかりだが、もうお別れである。

「旅立つ前に準備だけはしておけ。ハートレスの手がどこまで伸びているかわからないからな」

 腕を組んだレオンが、厳しい顔で忠告してくる。彼に悪意はないと分かってはいても、無表情で上から見下ろされると、どうしても怖い。

「この街には、お店もあるからいろんなものが手にいれられるよ」

 「オススメはそこね」と、ユフィが背後の店を指す。

「これは私たちから。自由に使ってね」

 言って、500マニーを手渡された。ポーション20本分だ。

「そしてこれはレオンから」

 追加でエアリスがエリクサーをくれた。高級なエリクサーは、本島ですらめったに買うことができない。照れているのか、レオンは目を閉じ顔をそらしていた。
 ユフィがにんまり笑う。

「じゃ、またね!」
「ともだち、見つかるといいね」
「うん、ありがとう」

 やわらかく微笑むエアリスに礼を言う。レオンがまっすぐソラを見つめた。

「気をつけて行けよ。心を強く持て」

 真剣に頷くソラ。これから、本当に旅が始まるのだ。気持ちが引き締まり、自然と背筋がのびた。





「グミシップに乗りこむときは、あのゲートから外に出るんだ」

 レオンたちが去ったあと、背後にある巨大な扉を見やりながらドナルドが言った。

「グミシップ?」
「僕らの船だよ」

 ソラの問いに、ドナルドが胸を張って答える。世界を渡る船……想像すると、気持ちが高揚し、早く見たいと気がはやった。

「楽しみ。どんな船なんだろう」
「すごく乗り心地がいいんだよ。ソラ、フィリア。早く見に行こう!」
「うん!」
「ちょっと待った」

 グーフィーに誘われ世界の扉を潜り抜けようとするのを、ドナルドが引き止めてきた。「まずは旅の準備をしなきゃ」とドナルドはおもむろにソラの手を掴んだ。

「ソラ、これを渡しておこう」

 二人の触れ合っている箇所から小さな赤い炎が走り、消える。ソラはびっくりしながら炎が輝いた箇所を確認していた。魔法の継承だと、初めて見たのに自分には分かった。

「これでソラも魔法の力を使うことができる」
「俺にも? やったあ!」

 早速炎を出そうとして、ぼしゅ、と煙を出しガッカリしするソラ。「練習が必要だね」とそれでも満足な顔をしたドナルドが、グーフィーに手招きした。

「グーフィーもほら、例のアレを」
「どれ?」

 のほほんと頭をかくグーフィーに、ドナルドは呆れ顔で「アレだよアレ!」とせかす。少しして、グーフィーはやっとひらめいた。

「ああ、アレ」

 言って、グーフィーがソラにドッヂロールという技を教え始める。体をすばやく前転させ、敵の攻撃から身を守る術らしい。
 その短い間、ドナルドがこちらを見上げてきた。フワフワの羽毛に包まれた尻尾をふりふりさせてる姿がかわいらしく見える。

「フィリア。キミも魔法を使うんだよね。雷のほかにどんな魔法が使えるの?」
「……えっと……」

 いつか避けられないと知りつつも、非常にまずい質問だった。あの時はソラの旅についてきたいばかりに「魔法が使える」ことばかり主張したが、あの時の雷はマグレというか、もはや偶然の産物であり、いま同じものを唱えようとしてもできそうにない。

「ごめんなさい……本当のことを言うと、よく分からないの」
「どういうこと?」

 ドナルドの瞳の表情ががいぶかしげなものになる。
 あの時、自分が唱えた魔法はサンダガというらしい。唱えた直後、エアリスに言われたことをそのまま伝えた。

「いきなりこれほどの魔法を使えるなんて考えにくいから、エアリスが『もしかして、昔、魔法を使ったことがあるんじゃない?』って……。でも、私、小さい頃のこと、何も覚えてないの」
「うーん……」

 ドナルドが片足を地面でパタパタと鳴らす。思案するよう組まれた腕が解かれたとき、彼の表情は笑顔だった。

「これから練習すればだいじょうぶ。僕が教えてあげるよ」
「あ――ありがとう!」

 「やっぱりキミは連れて行けないな」と、置いていかれる不安があったので、ほっと胸をなで下ろす。

「一緒に旅をするって、約束したばかりだからね。じゃあ、ソラと同じようにまず炎の力を渡しておくよ」

 彼のふわふわな手に触れると、先ほどのソラのように赤い炎が灯る。チリリとした肌触りに、パッと目が覚めたような気持ちになった。この感覚を知っている。どう扱えばいいのかも。

「外の世界に出る前に、ちょっと練習してみたら?」
「うんっ」

 ドナルドの提案に、わくわく頷く。ソラも失敗していたし、きっとすぐにうまくはいかないだろう。軽い試し打ちのつもりで、近くのレンガ壁に向けて思い切り魔力を放った。

「――炎よ!」

 具現したのは巨大な炎が三つほど。予想外の反動に耐え切れずしりもちをついている間に、炎は壁で大きく爆発し、一部崩れ落ち、もうもうとあがる煙の下に真っ黒コゲのレンガの残骸が積みあがった。

「グワァ……」
「はわわわわわ……」
「ど、どうしたんだ!?」

 ソラたちがこちらへ駆け寄ってくる。無残になった壁の有様を見て、あんぐりと口を開けた。




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