「おい、大丈夫か?」
ハートレスを倒した後。頭の上で星を回していた犬とアヒルに声をかけると、二人はピョコンと飛び上がり、すばやく周囲を警戒した。
「あれぇ、ハートレスは?」
犬が頭をかきながら言う。
「倒したよ。ちょっと危なかったけど、あの雷の魔法でなんとかなった。ありがとう」
そうアヒルを褒め称えると、彼はクチバシをポカンと開いた。
「僕、雷の魔法なんて使ってないよ?」
「え? でも――」
「使ってないったら、使ってない!」
そうムキになって否定されたら、こちらとしてもしつこく追求はできない。だが、それではあの雷はなんだったのだろう?
「それよりも、僕たち、やっと捜していた人に会えたねぇ」
犬がアヒルに言い、こちらを見て微笑んだ。
「捜してたって――俺を?」
うんうん、と二人が頷く。なぜ? その問いは別の声が答えた。
「彼らはキーブレードを持つ者を捜していたんだ」
いつの間に3番街へ来たのか、レオンだった。フィリアもちゃんといて、ユフィたちに手を引かれて立っている。少し、顔色が悪いように見えた。
犬が、ねぇ、と声をかけてくる。
「僕らの船でいろんな世界に行ってみようよ」
いろんな世界――真っ先に思い浮かんだのは、まだ見つからない友達ふたり。自然と視線が地面に落ちる。
「リクとカイリに会えるかな――」
「会えるさ!」
間髪いれず、アヒルが答えた。即答に思わず顔をあげると、犬とアヒルがこしょこしょと相談しはじめる。
本当に会えるのだろうか。レオンたちの説明を思い返せば、これはハートレスと戦う旅になるのだろう。命をかけた戦い――それでも二人に会えなかったら……。
俯いていると、レオンに優しく名前を呼ばれた。
「行ってこい。ともだちを捜すなら、なおさらだ」
「そう、かな」
後押しのおかげで決意が固まったときだった。
「ソラ、私もいっしょに行く」
おずおずと、しかし透き通った少女の声――フィリアが至極真面目な顔でこちらを見ていた。
「何言ってるんだ。フィリアはこの世界で待っててよ」
慌てて拒否するも、フィリアはぶんぶんと首を振り、唇をへの字にする。
「私もリクとカイリに会いたい。ひとりで待っているなんて、いや」
「ハートレスと戦う旅だぞ。ここにはレオンたちもいるから……」
「私も戦えるよ。魔法が使えるの」
「へ?」
「さっきの大きな雷を出したの、フィリアなんだよ。もうびっくりしちゃったー」
ユフィがフィリアの後ろで肩をすくめる。フィリアがあれほどの魔法を? いつ使えるようになったんだ? ぐるぐる考えている間にフィリアは瞳をうるうるさせて、尚もたたみかけてくる。
「ソラとまで離れ離れなんて、耐えられないよ。傍にいたいの……」
思わず全身が硬直し、カッと顔が赤くなる。フィリアの後ろではユフィがニヤケ顔でヒューヒュー茶化し、レオンは目を閉じて知らんぷりを決め込み、茶髪の女性は微笑みながら成り行きを見守っているのを恨めしく思った。
「それは俺も同じ気持ちだし、嬉しいけど、でも」
「ちゃんとソラの言うことを聞くって約束する。だからお願い」
グラグラと意思が揺れる。
「フィリアを危ないことに巻き込むわけには――」
「それなんだけどね」
「エアリス」
茶髪の女性がそっと割り込んできた。フィリアに呼ばれたその名は、先ほどユフィから聞いたものだ。
「ソラ、フィリアと一緒に居た方がいいと思う」
「どうして?」
「きっとフィリアを一番ハートレスから守ってあげられるのは、キミだから」
彼女の見立てでも、フィリアはハートレスに狙われている可能性が高いのか。
自分のことでも精一杯だが、フィリアのことを放っておけるわけもなく――そこで白旗を揚げた。
「フィリアも一緒だけど、いいよな?」
アヒルと犬に振り向くと、後ろでフィリアたちがホッとする気配がした。アヒルたちは少し困惑ぎみではあったものの「仕方ないなぁ」と承諾した。
「でも、今のキミたちは船に乗せられないな」
隣に立っていた犬が、そうなの? と言った様子でアヒルを見る。アヒルは首を振りながらグワグワ言った。
「怖い顔、さみしい顔はダメ」
「どうりで、僕らの顔は面白いと思った」
アヒルが、顔を寄せて笑う犬をドーンと突き飛ばす。
「笑顔が船のエネルギー」
「笑顔――」
いつも見ていたはずなのに、その単語を久しぶりに聞いた気がする。そういえば、この世界にきて一度も笑っていない。俯いて、とっておきの顔を準備した。
ドドドドドド……
ニーン!
それは完璧なはずだったのに、しばらく、周囲の表情が固まった。
この顔はあのリクでさえ腹痛になるほど笑い転がす威力があるはずなのに……外した?
自信が急速に萎んでゆくなか――突然げらげらと笑い声があがる。犬は腹をかかえ、アヒルは目に涙までためて笑っていた。
「すごく面白いよ、その顔」
フィリアも、ユフィも、エアリスも笑っていた。レオンだけは、口もとを手で隠し顔を背けて肩を震わせていた。
「行くよ、俺も。会いに行く」
フィリアに、来いよと手招きする。
「ドナルドだ」
まず、アヒル――ドナルドが手を差し出した。
「僕、グーフィー」
グーフィーもドナルドの手に己のを重ねる。
「俺、ソラ」
「私はフィリア」
自分とフィリアも、それに倣った。四つの手が重なってひとつになる。
「僕たちは仲間だ!」
グーフィーの宣言によって、旅の仲間が結成された。
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