3番街は先ほどと同じように静まり返っている――。ここにもハートレスを率いているヤツの姿は見えない。
キーブレードを肩にかつぎつつ、三番街の探索を始めた。すみっこにある、ライトアップされた噴水の方へ自然と足が進む。
「――ん?」
噴水へ着く途中、ちょうど広場の真ん中にさしかかったときだった。後ろの方から爆発音と悲鳴があがり、振り向いたときには何かが、ちょうど自分への方角に吹っ飛ばされてきている。
「え? あ、うわあっ!」
思わず前方へ逃れようとしたのが失敗だった。むしろ下敷きになるベストポジションに立ってしまい、まともに押しつぶされてしまう。飛んできたものは――アヒルと犬?
二人はこちらにのしかかったまましばらく頭上で星を回していたが、こちらの手元にあったキーブレードを見たとたん覚醒し、大きな瞳を輝かせた。
「――鍵だァ!」
この人たちも、キーブレードを知っている?
突然、地面が揺れ始めた。巨大な壁が植物のように生えてきて、2番街へと続く道がふさがれる。その上に立つ、ガシャガシャと鎧を鳴らすハートレスたち。ひと目で数え切れないほどの頭数だった。囲まれた。戦わなくちゃ――でも、こんなたくさんの相手に勝てるだろうか。
グワァとかウワァとか言いながら背にあった重しがなくなる。噴水を背に、慌ててキーブレードを低く構えた。
「たあっ!」
1対1とは違い、こんなに数が入り乱れる戦いは相手の出方など伺う余裕はない。袋叩きにされる前に集団の中へ斬りこむと、一斉に乱闘が始まった。刀身で斬り、切っ先で突き、渾身の力で吹き飛ばす。そうして一体を倒したかと思えば、呼吸をつく暇もなく、左右から狙ってくるハートレスに気がついた。まだ体勢は崩れている。守るべきか、逃げるべきか? 一瞬の判断に迷った。
「燃えろ!」
声がして、一匹が飛んできた炎の弾により爆発した。驚いたが、先に残っていたもう一匹からの攻撃を防ぎ、キーブレードで切り裂く。
「今の……」
火の弾が飛んできた方向を見ると、杖を構えたアヒルが得意げな顔をしていた。魔法使いだ――すごい! と思ったのもつかの間、アヒルの背後にぬっと現れたハートレスが、彼を蹴っ飛ばそうとしていた。それを、盾を構えた犬が体当たりして倒してしまう。こっちもすごいぞ!
ひとりでは厳しくても、これなら勝てる。確信し、先ほどよりも体に力がわいてきた。互いにフォローしあいながら、一匹残らずハートレスを倒しきるのには、そんなに時間がかからなかった。
「これで、全部倒したのか――?」
ハートレスがいなくなったのを確認し、息を整えながら姿勢を正す――頭上に濃密な気配が現れたのはその時だ。ハッと上を見上げると、巨大な紫色の鎧のカケラがガラガラと降ってきた。それらは地面で一度弾むと空中で組み立てられ、胴体、両手両足のパーツとなりロボットのような姿になる。
「グワワワワッ!?」
アヒルが驚愕の声をあげる。兜の中に金目を隠したそれは、島に現れたバケモノくらい大きかった。
「これもハートレスみたいだねぇ」
犬が盾を構えながら、のほほんと言う。
「こいつが、ハートレスを率いているやつなのか!?」
ハートレスにはこちらと意思疎通する言葉はないらしい。問いの返答を得ぬまま、銀に光る紫の爪が振り上げられたのが戦闘開始の合図となった。
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