「ソラのところへ行かせて!」
「だ〜か〜らっ、いまあっちは危ないんだってば!」
「ソラがひとりぼっちで危ないめにあってるなんて、放っておけない!」
「キミが行っても何ができるの? 戦えないんでしょ?」
「それは……でも!」

 1番街の路地で、ユフィと進展のない問答に時間をとられていた。

「もう〜! エアリスも言ってやってよ」

 ユフィが宿屋の隣部屋からついてきていた女性に話をふった。エアリスと呼ばれた彼女はどこか神秘的な雰囲気を身にまとっていて、カールした長い茶髪を揺らしつつ、桃色のワンピースを丁寧に折り曲げて、複雑な迷彩に輝く緑の瞳をこちらと同じ高さに合わせてきた。人形のように整った顔にまじまじと見つめられ、だんだん顔が熱くなってしまう。エアリス――宿屋でユフィから「診てもらえ」と言われていた人だ。
 エアリスは長い睫毛をゆっくり瞬かせると、わずかに首を傾けた。

「不思議。あなたからは、あなただけじゃない――なにか、別の気配を感じる」
「それってどういう意味?」

 ユフィの問いに、エアリスは困惑顔のまま少し考えるそぶりを見せる。

「よく、わからない……けれど、ハートレスはこの子のソレに引き寄せられているのかも」
「じゃあ、やっぱりこの子もハートレスに狙われているってことだね」

 言って、ユフィは近づいていた影を手裏剣を投げて消滅させた。
 ハートレスと呼ばれる生き物たちは随分退治され、群れにして現れないにしてもぽつぽつとしつこく姿を見せてくる。

「あいつらがこんなにしつこいの、初めてだもん」

 反論しようとし、何を言えばいいのか迷い口を噤む。いまユフィたちが戦っているのはひょっとして自分のせいなのだろうか。

「1番街だけでも、おれたちで守るぞ」

 一振りでハートレスを3体も消滅させたレオンは、2番街への扉の前に陣取り剣を構えなおした。

「キーブレードの勇者以外に、ハートレスが狙うものがあるとしたら――

 ふいに、エアリスが囁くような声音で言った。自然とその場にいたものたちの視線がエアリスに集中する。

「それはきっと、同じくらい重要なものだと思う。フィリア、だっけ。キーブレードを持たないのなら、キミはいったい何者なの?」
「え…………?」

 何者かと尋ねられても、彼女が納得できるような答えはない。ディスティニーアイランドに着く以前の記憶はない。だから、

「私は……私は、ふつう、です」

 こう答えるのが精一杯だった。
 俯いていると「ねぇ!」とユフィが大きな声で言う。

「この子がソラと同じように狙われるのなら、ここにおいてちゃまずいんじゃない? キリがないよ」
「それもそうだな。――おい」
「ひっ」

 眉根を寄せたレオンがこちらを見る。怖い顔が更に迫力を増していて、思わず隣にいたエアリスにひっついた。ユフィが半目でレオンを責めた。

「レオン、脅かしちゃだめだってば」
「……これが地顔だ」

 レオンは剣を持っていないほうの手で眉間を揉みながら、しかしまったく改善されない表情でこちらに言った。

「ついて来い。ソラのもとへ向かうぞ」




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