しばしの沈黙の後――なんとか気持ちが落ち着いてきた頃に、ユフィが明るい声で言った。

「キーブレードってね、いろんな鍵を開けることができるんだってさ。鍵や宝箱を見つけたら、ためしてみたら?」
「そうなのか」

 じゃあ、レオンが寄りかかってる扉で試してみようかな。遊び心をもって近づいたとき、レオンに釘をさされるように言われた。

「おまえの心をかぎつけ、いずれハートレスがやってくるだろう。今のうちに準備をしておくんだな」
「準備たって……」
「戦う心構えだ」

 厳しい声への返事につまる。
 キーブレードはこの手に現れた。レオンやユフィも戦うことを望んでいる。世界が大変なことになっていて、キーブレードを持つ自分だけがみんなを助けることができる――らしい。
 おおよそ実感のわかない話ではあったが、それでも襲ってくる闇と戦うことを、いま覚悟しなくてはならない。戦わなければ、殺されてしまうのだろう。

「……ソラ?」

 考えこんでいると、か細い少女の声が呼んできた。ベッドの上で、フィリアがとろんとした目をこすっている。慌てて彼女の側へ走った。

「フィリア! だいじょうぶか?」
「うん。ソラも無事で良かったぁ」

 眠たそうなフィリアの微笑みにホッとした。けれど、すぐに不安そうな表情に変わってしまう。

「ねえソラ、ここはどこ? いったい何があったの? 怖い人が、ソラのことをいじめていたでしょ?」
「ええと……」

 自分も理解はしていてもだいぶ混乱していたので、何からどう説明すればいいのやら。

「まず、俺は敵じゃない」
「きゃっ!」

 レオンの姿を認めたとたん、フィリアはビクッとして小動物のように自分の背に隠れてきた。このふたり、いつの間に面識があったのだろう。

「あんたには聞きたいことが…………」

 フィリアが大きく震えているのが、背ごしによく分かる。

「だめだこりゃ。すっかりレオンに怯えちゃってるね」

 レオンが参っている様子を見て、ユフィが反動をつけて立ち上がった。

「フィリアだっけ。ねえ、キミはキーブレードを使えるの?」
「きーぶれーど?」
「あ、こういうやつ」

 ユフィにはこっそり顔を覗かせて対応したフィリアに持っていたキーブレードを見せると、彼女は顔を不快そうにゆがめたあとに「知りません」ときっぱり答えた。

「おっかしいんだよね。ハートレスがしつこく狙うのはキーブレード使いだけのはずなんだけど……」
「さきほどは二人が気絶して、ようやく1番街からハートレスがいなくなった」
「それって、フィリアもハートレスに狙われたってことか?」

 確信はまだないとレオンが首を横に振り、ユフィは真面目な顔になる。

「とにかく一度、エアリスに見てもらったほうがいいと思うんだよね」

 フィリアがきょろきょろと周囲を見て、俯いた。

「私、どこかおかしいの……?」
「念のためだよ」

 ユフィがそこで話を切り上げた。ゆっくりレオンが剣を構える。

「ソラ、行けるか?」

 ついにまた、戦わなければならないのか。きゅと唇と引き締めた。やっぱり怖いと思うけれど、背にフィリアがいることが気持ちを奮い立たせてくれた。彼女に気弱なところなど見せたくない。

「ああ!」

 しっかり、レオンの目を見て頷いた。

「よし、ユフィ。とりあえずエアリスと合流しよう。向こうにも客が来ている頃だ」
「レオン!」

 ユフィの指の先、部屋の中に突然闇が現れる。2番街に入ったときに見た、あの鎧のハートレスだった。

「ユフィ、先に行け!」

 レオンが命令し、戦い始める。ユフィはフィリアの手を掴みこちらを見て、「じゃあ、あとはよろしくね!」と言った。

「この子はあたしたちが守るから、早くハートレスやっつけちゃってよ!」
「お、おう!」
「どうしてソラといっしょじゃないの……? ソラ、危ないことするの?」

 ひとり、話が分からないフィリアが困惑しているが、いよいよ説明している暇はなくなった。ハートレスたちが次々と襲い掛かってくる。毎日リクたちとチャンバラをしてたんだ。簡単に負けるものか!

「フィリア、またあとで迎えに行くよ」
「ソラ!」
「急いで!」

 ユフィが隣の部屋に続く扉を開き、走り出した。フィリアはそのまま連れて行かれ、そのあとを追いかけようとしたハートレスを叩き消す。

「ついてこい、ソラ!」

 レオンが窓ガラスを割りベランダから下に飛び降りた。驚きつつもそれに続く。
 薄暗い路地裏には水路があり、カラフルな旗が頭上を飾っていた。その間を赤や青の宙に浮くハートレスがぴゅんぴゅん飛びまわっている。

「うわっ、こいつらどれだけいるんだ?」
「ザコをいくら倒してもムダだ。こいつらを率いているやつを捜すんだ! 行くぞ!」

 口早に説明して、またレオンが走り出す。木箱やタルが積んである道を塞いでくるハートレスたちを倒しながら、2番街への扉を開いた。

「俺はこのまま1番街のハートレスを片付ける。危なくなったら1番街まで戻って来い」
「わ――わかった!」

 レオンはそのまま1番街の扉の先へ行ってしまった。ひとりでハートレスに囲まれ必死に戦いながら先へ進む。
 ハートレスを率いているのっていったいどんなやつだろう。キーブレードを振り回しながら三番街への扉を開いた。




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