「もう、ソラ。だらしないなー」

 カイリの声が聞こえて薄らと目を開くと、彼女が両手を腰にやって呆れたように立っていた。

「だいじょうぶ?」
「あ、うん――

 顔をのぞかれて、慌てて起きあがる。場所は知らない部屋の中。ベッドに寝ていたらしい。なぜかシドに預けていたはずのフィリアが隣で眠っていたが、とりあえず今はカイリの方を向いた。

「あいつらはね、君のそのキーブレードを狙ってるの。正確には、キーブレードを持ってる君の心をね」

 ベッドから足を下ろしながら、数歩進むカイリを見つめた。言っている内容はよく分からないが、ケガもなく元気そうな様子にほっと胸をなで下ろす。

「無事で良かった、カイリ――
「誰それ? 私は――

 クスッとカイリが笑う。

「かわいいユフィちゃん!」

 えっ? と思ったときには、視界の霧が晴れた。目の前にいたのは確かに肩より短い髪の女の子だったけれど、あでやかな赤髪でなく艶のある黒髪だった。
 ポカンとしていると、ユフィは部屋の扉に寄りかかっていた男の方へ顔だけで振り向いた。

「スコールが無茶するからだよ」
「レオンと呼べ」

 先ほど戦った男だった。ユフィがいなかったらまた睨んでいたところだろうが、どうやら敵じゃない――らしい?
 レオンのすぐ横の壁に、鍵の剣が立てかけられていた。先ほどのユフィの話は、これを指していたのだろう。

「キー……ブレード――

 呼んでみると、ユフィが頷いた。

「そう。ちょっと手荒だったけど、あいつらをまくには――君がキーブレードを手放すか――
「おまえの心を隠す必要があった。ほんの一時しのぎだけどな」

 それだけのためにあんな痛い思いをしたのか? それに、やはりカイリはこの部屋にいないらしい。いろいろガッカリして俯いた。

「それにしても、おまえが選ばれし者とはな」

 レオンがおもむろにキーブレードを掴んでみせた。すると少しもしないうちにキーブレードは光となって消失し、自分の手に現れる。

「頼りないが、仕方ない、か」

 先ほどのようにため息をつくレオン。勝手に話を進められ勝手に落胆されても、こちらとしては不愉快なだけだ。

「全然わかんないって! ちゃんと説明してくれよ!」
「いいよ! じゃあ順を追ってね」

 言って、ユフィがどっかり隣に腰掛けた。

「まず、ハートレスについてだ」
「ハートレス?」
「ほら、君を追っかけてたやつら」
「心なきもの≠セ」
「やつら人の心の闇≠ノ反応して襲いかかって来るんだよ!」
「誰の心にも闇はある。おまえも気をつけろ」

 心の闇がなんなのかよくわからないが、襲ってくるあいつらはハートレス≠チて名前らしい。

「ねえ、アンセムって人、知ってる?」
「だれ、それ?」
「アンセムはハートレスの研究をしていた。その研究レポートは、さまざまな世界に散らばってしまっているらしい」
「じゃあ、そのレポートを集めれば、ハートレスをなんとかできるかもしれないのか?」
「あくまで、できるかも――なんだけどね」

 ユフィが肩をすくめた。

「この9年の間にたくさんの世界でハートレスが蔓延しちゃっているから、レポートを見つけるためには鍵≠ェ必要なんだよ」
「ハートレスはすべての世界を闇に堕とそうとしている。この状況を覆すことができるのは鍵≠セけだ」
「ふぅん……で、鍵≠チて?」

 ふたりがいっせいにこちらの手元を見た。

「鍵? これが?」
「そそっ!」
「キーブレードはハートレスにとって邪魔なものらしい。だから持ち主のおまえは狙われる」

 狙われる!? ぞっとした思いで剣を見た。

「俺、こんなのいらないって」
「キーブレードが持ち主を選ぶんだってさ。あきらめなさい!」
「災難だったな」

 ユフィは歯を見せて笑い、レオンは再び戸に寄りかかった。
 あんまりだ。この剣に俺を選んでくださいなんて頼んだことはないし、悪いことだってした覚えはない。なのにあの魔物たちに延々と襲われ続けるなんて想像するだけで恐ろしかった。

「そんなあ――俺、部屋でボーッとしてたら――あっ」

 先ほどのレオンの発言を思い出し、はっと立ち上がった。ハートレスが現れた島で見た光景は、正に闇に堕ちた≠ニいう言葉に相応しい。

「俺の部屋は? 家は、島は!? リク! カイリ!!」
「誰にも、何ともいえないことだ……」

 レオンが静かに目を閉じた。




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