短い裏路地を抜けると、すぐに大きな広場に出た。中央には黄色い光をこぼす電灯が二本ほど設置されていて、その周辺に浮かない顔をした人たちやモーグリがぽつぽつ立っている。奥には古めかしいカフェバーがあったが、誰も座っていないようだ。帽子をかぶったヘンテコなデザインの大きなポストが階段の側にたたずんでいて、高い高い壁に取り付けられた、固く閉ざされたとても大きな扉が二つ見えた。

「こんなの、見たことない……」

 口をポカンと開けて何度もきょろきょろ見回すが、島と同じものは何ひとつない。

「あっ! 外の世界!?」

 いよいよ心臓がドキドキして、つばを飲み込む。
 ずれていたフィリアのポジションを直しつつ、早速そこらへんの人に話しかけてみることにした。
 自分と同じくらいの年齢の男の子は

「母ちゃんも父ちゃんも、今ごろどこで何してるんだろうな……」

 と、切なげに俯き、カフェバーの側にたたずんでいた色っぽい女性は

「ここは帰る場所のない者が集まる街……私がどこから来たかって? やぼなことを聞かないで。この街で、その質問はダメよ。みんな、つらい思い出があるのよ」

 と早口でまくしたてると首を振った。
 だれもが暗い顔で俯いて、まるでお葬式のような雰囲気だ。
 大きなポンポンを頭からぶら下げたモーグリは、話しかけるとクポポと鳴いた。

「安全なのはこの1番街だけクポ」
「なあ、この街はどれくらい広いんだ?」
「キミ、見ない顔クポね。来たばかりの人がこの街を全部まわるのは、なかなかたいへんクポ」

 えっへんと先輩面していたモーグリは、背負ってるフィリアに気づき、またクポポと鳴く。

「おんぶしたまま歩くのはもっと大変クポ。まずはあそこのお店へ行くといいクポ」
「階段を登って正面にある店のことか?」
「きっと親切にしてもらえるクポ」

 よくわからないが、モーグリに礼を言って派手な看板の店へ入った。立派な扉を片手のみで苦労して開けば、たいそうな店構えにしばし目を丸くする。入り口のすぐ右側に火がない暖炉があり、中央にはガラス張りのショーウインドウの中でアクセサリーがピカピカ輝いている。来客用なのか夜空の絵を背景にソファまで完備してあった。

「おう、らっしゃ……なんだ、ガキか」
「ガキじゃない、ソラだ!」

 カウンターに立つ、店主であろう男が振り向くなりつまらなそうな顔をする。彼はおおよそアクセサリー屋らしくない格好で、白いモモヒキの上に茶色の腹巻をし、短く切りそろえた金髪にくたびれたゴーグルをつけていた。
 確かにお金がないから客ではないのかもしれないが、あんまりな歓迎におそるおそる階段を下りながら言い返した。

「ヘッ、悪りィ悪りィ。んで、どうした、ソラ? うかない顔してるぜ。迷子か?」
「ちがっ……わないか」

 謝った矢先にまたまた子ども扱いされ不服に思ったが、それどころではない。

「あのさ、ここどこ?」
「なんだぁ?」

 率直に訊ねると、男は素っ頓狂な声をあげ、あやうく咥えている串を落としかけた。





「トラヴァースタウン……」

 カウンターの端にある輝く合成品を見つめながら、この世界の名を呟いた。聞いたことのない名前だった。

「じゃあオッサン、ここは本当に外の世界なんだな?」
「オッサンじゃねえ、シドだ!……まあそりゃあともかく」

 シドは鼻をかきながら、むつかしい顔をした。

「その、外の世界だがどうだかわからねえが、おまえさんがいた島じゃねえのは確かだ」
「そうか……わかった」

 納得はできたが、正直なところまだ混乱していた。どうしていきなりこんなことに――。とりあえず、フィリアのように同じ島にいた友だちなら、同じことに巻き込まれている可能性が高いだろう。

「俺、リクとカイリを捜してみるよ」

 シドがほっとした顔をして、それからニカッと歯を見せて笑った。

「おう。何か知らねえが、しっかりな! それからよ、どうにも困ったときにはこのシド様のところへ来いや。力になるぜ!」

 もう一度――今度は照れくさそうに――シドが鼻をかく。

「ダチが見つからねえならここに戻ってこい。俺がめんどう見てやる」
「ありがとう、シド。じゃあさ、俺が探しに行っている間、フィリアのこと頼むよ」
「その背負ってる嬢ちゃんのことか? そこのソファを使いな」

 親指で示されたソファへフィリアを横たえる。島で、あのバケモノに捕まっていたフィリア。彼女は毎日カイリといっしょの船で島へ来ていたから、あの夜もきっと一緒だったろう。いまだ、ピクリとも動かなかった。はたから見れば健やかな眠りだ――目を覚ますといいのだが。

「ほらよ、かけてやんな」
「サンキュ」

 シドが店奥から抱えてきた薄い毛布でフィリアを包む。

「じゃあ、行ってくるよ」
「気をつけてな」

 店を出るときにもう一度だけフィリアを振り向き、リクとカイリを探しに出た。




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