「かかれ〜!」

 ソラ対ティーダ、ワッカ、セルフィの試合を桟橋の下から眺める。ティーダの猛攻を受け流しながら、セルフィの蛇のように繰り出されるなわとびを避け、ワッカのボールを打ち返しているソラ。健闘しているが、多勢に無勢で苦戦している。

「フィリア?」
「あ、リク」
「タマゴなんて抱えて何して……あぁ、ソラ待ちか」

 言わずとも、リクは状況を理解してくれたようだ。ポカポカ殴られてあわあわと逃げ回るソラに「なにをやっているんだ」と苦笑している。

「ソラも、まだまだだな」
「ねぇリク、チャンバラって楽しい?」
「ん?」
「みんな、痛そうなのに楽しそう……怖くないのかな?」

 ソラがティーダにポカッとされて、反射的に息を呑む。

「人には、向き不向きがあるさ」

 そっと触れるように、頭にリクの掌が乗る。見上げると、リクの視線もソラからこちらへ移っていた。

「恐いこと、辛いことを無理してやることなんてない」
「でも……もし、外の世界が怖いところで、戦わなくちゃいけなかったら、必要だよね?」

 真剣に考えた発言だったのに、リクは聞くなりおかしそうに笑った。

「心配いらないさ。外の世界が危険だらけな場所だったとしても、俺がみんな守ってやる」
「……ほんとう?」
「ああ。約束する」

 リクの自信に満ちた優しい声に安心する。うん、リクが約束してくれるなら心配なんていらないかも。

「ありがとう、リク」

 ぽんぽんと撫でてくれたあと、リクは入り江の方に戻っていった。ちょうどソラは三人に負けたところで、再度勝負を挑んでいた。





★ ★ ★





 滝の近くにある小さな洞窟――秘密の場所。ずっと幼い頃にリクと見つけ、以来たまに訪れる。
 なんの変哲もない場所で、ドアノブのついていない扉に似た板が一枚、岩壁に貼り付けられているだけだ。殺風景でつまらないので、白の小石を使い壁一面に落書きをした跡は今も鮮明に残っている。
 その中のひとつ――いつだったか、カイリと二人で遊んだとき、互いの顔を描きっこした。板のすぐ横でへたくそなカイリとなかなか上手な自分が向き合っている。
 懐かしいカイリの絵に触れれば、本物の彼女の姿が浮かぶ。いつからだったか覚えていないが、彼女に対し抱えている想いはこの頃より成長している。

「パオプの実の伝説――試してみたかったんだろ?」

 リクにはバレてるみたいだけれど、まだ、これを告げる勇気は固まっていない。でも、いつか――外の世界から帰ってきたときにはちゃんと伝えたいとは思っている。そんな気持ちに突き動かされ、小石を拾って岩に絵を描き加えた。
 数分は経っただろうか。描ききったとき、いきなり背後から物音がした。夢中になって、誰か来たのに気づかなかったのだろうか。思わず絵を隠しながら立ち上がる。そこにいたのは薄汚れたローブを身にまとった大人だった。

「だ、誰?」
「この世界の扉を見に来た」
「はあ?」

 声で男だと分かったが、顔が暗くてわからない。それに何を言っているのかまったくチンプンカンプン。

「この世界は繋がった」
「あんた、何言ってるんだ?」

 男は身じろぎひとつせず、淡々と言葉を紡いでゆく。

「闇と繋がった世界――まもなく光を失う世界――
「気味悪いこと言うなよ。誰だか知らないけどな――

 己の発言によって気づく。本当に誰だろう。これほど怪しい格好をしている人がいたら、島じゅうでウワサになるはずだし、こんな不気味なことを言う者など思いつかない――島の人間ではない?――でも、それじゃあ……。

「あんた、どっから来たんだ!?」
「おまえがまだ知らぬ、扉の向こう」
「他の世界から来たんだな!」

 今までどこか半信半疑だったものに確信を得た瞬間だった。本当に、外の世界はあったんだ! しかし、期待を膨らませるこちらへ向かって、男はなんの感情も宿っていない声で言った。

「おまえには何もわかるまい。おまえは何も知らない」
「俺はこれからいろいろ知るんだよ。準備だってしてるんだからな!」
「何も知らない者が何を見ても――そう、何も理解できまい」
「…………」

 生気のない声が不気味さを煽った。
 扉の向こうから来たと、この男は言った。しかし、扉なんてこの辺にあっただろうか。気になりだして傍にあった板を見やると、次の瞬間には男の姿は消えていた。

「……消えた……?」

 絵は残っているから、夢ではない。たった今さっきのことなのに、本当にあったことなのかも自信がもてなくなってきて、早くキノコを見つけて洞窟から出ることにした。




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