「これで50勝50敗だ!」
「イカダの名前でムキになるなんてソラらしいな」
冷やかしてくるリクに腹が立つ。勝負の前にあんなこと言ってきたのはリクの方なのに。いつもより必死になってしまい、まだ息が上がっている。
「ソラ、おめでとう〜。さっき、きれいな石を拾ったから、あげるね」
「これでイカダの名前はエクスカリバーに決定っと。でも、どうして船に剣の名前なの?」
フィリアとカイリの言葉が耳に入ってこない。こそこそリクに詰め寄った。
「リク、さっきの話だけど……」
「さっきの話?」
すっかり忘れていたという態で、リクがククッと笑う。
「ああ、パオプの実のことか。冗談だよ、気にするな」
「なっ、冗談?」
「あの時のおまえの顔……面白かったぜ」
三日月に細められた目。カッと顔が熱くなる。
『俺が勝ったら船長な! おまえが勝ったら――』
『カイリとパオプの実、食べる』
『は?』
『いいだろ? 勝ったほうがカイリとパオプの実を食べさせあうんだ』
『な、なに言って――』
『ん? それともソラはフィリアと試したいのか?』
「パオプの実がどうしたの?」
「うわああっ!?」
いきなりフィリアが会話に入ってきたので飛び上がった。彼女は自分の真後ろにいて、先ほどまで一緒だったはずのカイリはいない。
「ソラ。カイリがエクスカリバーのところで待ってるって。それで、パオプの実がどうかしたの?」
ロマンチックな話が好きらしいフィリアが、わくわく瞳を輝かせている。なぜか唇に目がいくし、パオプの実のおまじないが頭の中でぐるぐる回って恥ずかしい。
「なんでもない! なんでもないから……!」
「でも……」
「実はな、フィリア。ソラは――」
「わーっ! わーっ! フィリア、早くカイリのところへ行こう!」
またリクにからかわれてることへ気が回らないほど焦りながら、クスクス笑い声を背にフィリアの手を引きイカダまで走る。
完成したイカダ、もといエクスカリバー。そこでカイリが一本しかないメインマストに背をあずけ待っていた。
「今日はイカダにのせる食料を集める日だからね!」
彼女からずずいっと渡されたのは大きな袋、そして空きビン。
「えーと、ソラの担当は……海ドリのタマゴ1コ。キノコ3本。木の実2コ。魚3匹。それからそれから、これに飲み物を入れてね。海の水はダメだよ」
ビンを指差しながら言われた任務。またフィリアが「手伝う」と申し出てきたので一緒に出かけることにした。
「キノコは暗くてジメジメした場所にあるんだよな」
「うぅ……私、キノコ苦手〜」
渋い顔するフィリアに笑いながら、入り江で隠れるように生えていたキノコを二本発見する。続いて浜辺に移動して魚を採り、フィリアに飲み水を取ってきてもらう間に木の実を二つ手に入れた。
「あとは海鳥のタマゴとキノコ一本か……」
海鳥のタマゴは木の上の巣にあるはずだ。早速小屋の側にある木へ行って、ひょいひょいっと登って親鳥がいない間に失敬する。
「フィリア! タマゴ落とすぞ」
「うん!」
フィリアが木の上から落としたタマゴをきちっとキャッチする。ほうっと息を吐く表情から、割れずに済んだようだ。
木から降りたとき、大きなタマゴを抱っこしたフィリアが緑模様の殻を指でなぞる。
「ソラ。このタマゴ、暖めたら孵るかな?」
「えっ、ん〜……どうだろう?」
「な〜にしてるッスか?」
「うわわっ、ティーダ!」
離れ小島で素振りをしていたはずのティーダが、いつの間にかいぶかしんだ顔でやってきていた。
「でっかいタマゴなんて抱えちゃってさ。それ、昼メシ?」
「ああ、うん、ちょっとハラが減ってさ……」
「ふ〜ん?……それにしては、ずいぶんたくさん食べるもの集めてるッスね?」
計画のことがバレて、大人たちに知らされると厄介だ。
こちらの焦燥を悟ったのか、ティーダは持っていた棒で肩をトントン叩きながら言った。
「最近さぁ、ソラたち妙にコソコソしてねーッスか?」
「そんなことないって!」
「ヤバイことしてんなら、カイリやフィリアを巻き込むなよ。――ま、ソラはともかく、リクがついてるのなら安心だけど」
その言葉に、さすがにムッと言い返す。
「どうして俺はともかく扱いなんだよ!」
すると、ティーダが「当然だろ」と笑い飛ばした。
「ソラもけっこう強くなったけど、リクにくらべたらまだまだッスね。この前なんか3対1だったのにやられちゃってさあ。カイリもリクをたよりにしてるんじゃないかな」
確かにリクは要領がいいし、なんでもできて、なんでも知ってる。このままじゃあ、自分はずっとリクには敵わないんだろうって気すらする。それでも、今のティーダの発言を認め、受け入れるわけにはいかなかった。
「ソラ……?」
機嫌を察したのか、フィリアが控えめに呼んでくる。持っていた食材を袋につめ、フィリアに「ちょっと待ってて」と手渡した。
「ティーダ、勝負だ!」
「そうこなくっちゃ!」
こちらは木剣を、ティーダが棒を構える。
リクにもできたんだ、自分にもできずはず!
「3人まとめてこい!」
「ひゃ〜、カッコつけちゃってさ。後悔しても知らないッスよ」
ティーダは好戦的に笑うと、ワッカとセルフィを呼びに行った。
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