「ソラ。イカダね、もう完成したんだよ」
「えっ、もう?」
「朝早くに、リクが作ってくれていたの」
「そっか、リクが……」

 セルフィと別れてのんびり会話しながら入り江に着くと、入り口でリクが立っていて、ソラに「待ってたぞ」と声をかけた。

「なあソラ、そういやまだ俺たちの船に名前をつけてなかったな」

 言って、リクは少し考えるそぶりをする。

「俺は……そうだな……ハイウィンドなんてどうだ? ソラならどんな名前をつける?」
「俺? 俺はええと……」

 ソラは顎に手を添え考えて、すぐに元気よく答えた。

「エクスカリバー!」
「それって確か、ソラたちがやっていたゲームの剣の名前でしょ?」
「別にいいだろ。かっこいいし!」
「ソラらしいな」

 フッと笑い、リクはソラをまっすぐ見る。察したソラもニヤリと笑った。

「よーし、それじゃ……」
「やるか?」
「いつものな!」

 何かを決めるとき、意見が真っ二つに割れたとき。ビーチレースの勝者の意見が通る決まりだ。どっちが勝っても恨みっこなし。
 こちらの声を聞きつけたらしいカイリがトコトコ橋の上からやってきた。

「またやるの? じゃあ私が審判してあげる」
「ルールはいつも通り。どのルートを通ってもいい。あの樹にタッチして先にここまで帰ってきた方が勝ちだ」

 リクがソラとルールを確認をしている間に、邪魔にならないようカイリと端っこへ移動する。こちらが定位置についたときも、説明はまだ続いていのか、ソラとリクは二人だけで聞こえる声量で話していた。

「いい? 位置について!」

 カイリが手を上げ、二人のないしょ話を切り上げさせる。またリクがソラをからかったのか、非常にうろたえているソラの顔が、その時なぜかとても印象に残った。










 乗ると落ちる橋を通り、スライダーで空中移動、ココヤムの樹の上を伝い、星型の木に触れてスタートに戻る。単純なレースだがルートはいくつも存在し、コースの選び方によって大逆転も期待できる。
 まず、ソラとリクは橋上で競った。途中、板といっしょにソラだけが落ちてく。リクは華麗に跳び、スライダーへの梯子を登って行った。

「ソラ、だいじょうぶかな?」

 必死に砂浜を駆けてくソラを見送りながら、つぶやく。

「フィリアはソラを応援してるの?」
「ん、リクのことも応援してるよ」

 言いつつ、ちょっとソラ贔屓な考えをしていたことに気づく。一生懸命なソラに対し、リクは応援しなくても易々と勝ってしまいそうだからだろうか。
 リクがリードしたまま二人の姿が見えなくなり、しばしレースの状況が分からなくなる。

「あのさ……最近、リクって変わったと思わない?」

 ぼうっとココヤムの方向を見ていると、声音を落としてカイリが言った。

「リクが?」

 コクリと頷くカイリはとても真剣な表情をしていて、冗談を言っているようには思えない。
 リクは出会った頃から優等生で、運動もできて、頼もしい。からかってくるときもあるけど、とっても優しく親切だ。……変わっただろうか? よくよく考えたが、特にそんな気はしなかった。

「んー? 私は、そう思ったことはないかな」
「そっか。……ごめんね、変なこと聞いて」

 自分には気づいていない何かを、カイリは感じているのだろうか。終わろうとしていた話を続けようとしたとき、ちょうどリクが橋を、ソラは砂浜を駆けて戻ってきた。




原作沿い目次 / トップページ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -