ワッカのボールを避けるソラを横目で見つつ、桟橋で足をぶらつかせているセルフィに手を振った。見た目にうける印象通り活発な性格である彼女は、女の子でありながら、よく男の子たちのチャンバラになわとびで参戦している。

「セルフィ〜」
「あ、フィリアも来てたんか」
「うん。セルフィ、何してるの?」
「なーんにも。いま、何をしようか考えていたとこなんや」

 へら〜と笑う彼女といると、こちらも頬の力が抜ける。彼女の隣に座り、同じように足をぶらぶらさせた。

「風が気持ちいいね」
「うん」

 セルフィに倣って、そよぐ海風に集中する。強すぎず弱すぎず、風に優しくなでられてるみたいだ。

「そういえば、フィリア。パオプの実の伝説のこと、もう誰かに教えてもらった?」
「ううん。なあに、それ?」

 たずね返せば、とたんにセルフィが声量を落とし、ないしょ話するみたいに口元に手を添える。

「あれにはな、とーってもロマンチックないいつたえがあって……」
「あっ、危ない!」

 そのとき、ソラの声と同時にドカッ! と桟橋が震えたので縮み上がった。ワッカのボールがぶつかったらしい。投げた犯人であるワッカは、ソラに負けて砂浜にヘロヘロとしゃがみこんでいた。
 木剣を肩に、ソラが慌ててやってくる。

「よかった、ケガはないみたいだな」
「ヘーキヘーキ! それよりソラ、今度はうちと勝負して!」
「えぇー、セルフィと?」

 ソラがちょっと困った顔をすると、セルフィはブーブー唇を尖らせた。

「ソラって最近いそがしい? あんまり遊んでくれないよね」
「別に、忙しいっていうか……」

 ソラは女の子に優しい(弱い)から、チャンバラには男の子の方が誘いやすいのだろう。
 もう一試合の許可を伺う視線に、いいよと頷いた。 

「よし、セルフィ。勝負しようぜ」
「どうしたの? 今日はめずらしく強気じゃん!」
「俺はいつでも強気だって!」
「手加減なしやで〜」

 なわとびを取り出したセルフィとソラが砂浜で向き合う。セルフィは映画のカウボーイみたいに縄跳びを振り回すので、桟橋にいても当たってしまうかもしれない。そう考えて、桟橋をはさむ場所でワッカと共に二人のチャンバラを見守ることにした。
 イテテ、と呻きながらワッカが腕を撫でている。

「ワッカ、痛い?」
「いや。たいしたことねぇって。でも」

 セルフィのなわとびを木剣で防ぐソラを見つめながら、ワッカがしみじみ言った。

「最近、ソラのやつにも勝てなくなってきたなぁ……」
「ん?」
「リクに負けるのはもうしかたねぇって思えるけどよ、ソラに負けるのは納得いかねえっていうか、年上としてへこむっつうか……」

 そこで言葉を止め、ワッカが白い歯を見せて笑う。

「おまえに言ってもしゃーないか。なんでもない。気にすんな」
「うん?」
「よっしゃあ! 俺の勝ちー!」

 ソラの声でそちらに意識が奪われる。セルフィの縄跳びがソラの木剣に絡め取られて、あさっての方向へ放られていた。武力解除でソラの勝ちだ。

「もぅ、なによぅ。こんな負け方、納得いかへんわ!」
「勝ちは勝ち、負けは負けだろ!」

 文句を訴えるセルフィを適当になだめ、ソラがこっちへやってくる。

「おまたせ!」
「うん」

 駆け寄る寸前、ワッカがぬっと前に出て、ソラに言った。

「ソラ、何をしてるか知らないが、フィリアにケガさせるなよ?」
「わかってるって。フィリア、次はあっちの方を探してみようぜ!」

 木が生い茂っている方向を差すのに頷いて、二人に手を振り材料探しへ再出発する。





★ ★ ★





 いつ誰が張ったかは謎だが、帆に相応しい、壁に飾ってあった大きな白布を引っぺがす。カイリに指示された材料も大分揃い、持ち運びに苦心するようになっていた。
 残るロープと丸太を求め周囲を見回すと、海に向かって素振りをしているティーダを見つけた。太陽のような笑顔が印象的な、お調子者で負けず嫌いな楽しいヤツ。前にそれをカイリに言ったら「そういうところ、ソラと似てるよね」と言われて思わず顔を顰めたのはまだ記憶に新しい。
 ティーダに近寄ると、フィリアがこそっと自分の背に隠れるように動いた。最近、この二人の様子はちょっとおかしい。というか、フィリアが一方的にティーダに対し気まずそうにしている。

「よ、ティーダ」
「よっ、ソラ! 俺と勝負ッス! って、フィリアも一緒だったッスか」
「こ、こんにちは、ティーダ」

 フィリアが礼儀正しい挨拶を返したので、ティーダがムッと頬を膨らませた。

「なんだよ、よそよそしいな。フィリア、最近俺に対しておかしくないか?」
「え?……あ、私、別にそんなつもりじゃあ……」

 声と服の端を握られる感触で、フィリアが背の裏で萎縮してゆくのが分かる。ティーダはいい奴だし、女の子には優しい。加えて普段ポヤーッと微笑んでるような性格のフィリアがこんな様子になるなんて、いったい二人の間に何があったのだろう。

「ま、言いたくないのなら別にいいッスけど……」

 助け舟を出す前に、ティーダから切り上げて再び素振りをし始めた。でも、言葉ぶりに反してめちゃくちゃ気にしているって顔で、少々気の毒だった。

「ソラ、勝負しようぜ。俺の実力、見せるッス!」
「のぞむところだ」

 拗ねた顔のまま、ティーダがぶっきらぼうに言ってくる。せめて、不満発散に付き合ってやるか。ふくれっ面だったティーダが、一転して挑戦的な顔になった。

「負けないッス!」

 戦う場所は砂浜と決まってる。側に落ちていたロープを回収しつつ、ワッカとセルフィがいる桟橋まで飛び降りた。




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