太陽に温められた砂浜に寝転ぶ少年。海風に撫でられて、気持ちよさそうに眠っている。

「ソラ……」

 彼は、自分にとって一番に特別なひと。見つけてくれて、助けてくれて、そして名前をくれた人だから。

「フィリア、シーッ」

 口元に手を当てたとき、ぴょんぴょんの茶髪が大きく揺れて、ソラがむっくり動きだした。こっちに気づくだろうか、どうするだろうか見ていると、のんきに大あくびをひとつして、またごろんと横になる。また寝ちゃうのかな? カイリと顔を見せ合って、いっしょにソラの顔を覗きこんだ。眠たそうにとろけていた綺麗な青眼はとたんに覚醒、陸に打ち上げられた魚のように跳ね起きる。

「おどかすなよ、カイリ! フィリアも!」
「ソラ、おはよ〜」
「そっちが勝手におどろいたんじゃない。そろそろさぼる頃だと思ったんだよね、ソラは」

 リクの発案でイカダを作りはじめて数日経ったが、毎日決まって途中でいなくなるのがこのソラ。いなくなっている間はやれ昼寝が長引いてしまっただの、ティーダたちと決着をつけていただの多忙を訴えて、それでもなんとかノルマだけはこなすので、今のところイカダの製作は順調だ。
 カイリの言葉に、ソラは心外だという顔をした。

「ちがうって! あの真黒い奴が俺を呑みこんで、息ができなくなって――

 ソラがよくわからないことを言い出したところで、カイリの腕が振りあがって落ちる。ソラの頭とぶつかって「痛ェ!」と小さな悲鳴が上がった。見ていたこちらも思わずビクッとしてしまう。

「まだ目がさめない?」
「夢じゃなくて――夢だったのかなあ」
「なにを見たの?」

 促すと、自信なさげにうつむきながら、ソラはぽつぽつ話を続ける。

「知らない場所でさ、へんな場所でさ」
「はいはい」

 珍しく深刻な顔でされたソラのあやふやなお話は、それで打ち切られてしまった。

「……なぁ、カイリ」

 ソラの視線が波打ち際へ行くカイリを追う。それがなんだか面白くなくて、ソラの横に両膝を立てて座りこんだ。ソラったら、こっちも見てよ。

「カイリが子供の頃にいた街ってどんなところだった?」

 近所の大人たちが自分を見てヒソヒソ言っていたのを思いだす。数年前のある日、カイリも突然、海からこの島に流れ着いたのだと。

「おぼえてないよ。前にも言ったでしょ?」
「思い出したかと思って」
「ぜんぜん」
「帰りたくならないのか?」
「私はここで幸せだから――
「そうか」

 二人の会話を聞きながら、さんさんとした日差しにうとうと眠くなってくる。先ほどのソラの気持ちがとても分かった。

「でもね――見てみたいって気はするな」
「俺も見たいんだよなあ。この世界以外にも世界があるんなら、死ぬまでには絶対見たい」

 他の世界。外の世界。本当にあるのなら、怖いところであるような気がする。行かなくてよいのなら行きたくないが、ソラたちとは離れたくない。

「じゃあ、一緒に行こうね。フィリアもだよ?」
「うん」
「おいおい」

 まどろみながら返事をしたら、違う声音が割り込んできてハッと顔をあげる。

「俺は仲間はずれか?」

 振り向けば、呆れ顔のリクがそこにいた。腕に筋が見えるほどしっかりとした筋肉で、胴ほどの太さの丸太を軽々と担いでいる。

「リク」

 彼のサラサラな銀髪と整った顔だちは、島の女性たちに大層人気だ。加えて賢く、運動神経も大変優秀なので、子どもたちはもちろん、大人もみんな彼に一目置いている。

「しかも――まじめにイカダを作っているのは俺だけだ」

 言いながら、リクは丸太をソラにぽーいと投げた。ソラはあわてて受け止めたけれど、見た目以上に重かったらしく砂の上に寝転んでしまう。

「カイリとフィリアも、一緒にさぼってたろ」

 アイスブルーの瞳に怒りの色はない。カイリがニカッと笑って頭をかいた。

「バレたか」
「ん、ごめんね」

 眠たい目元をごしごししながら謝ると、腰掛けたリクにわしゃわしゃと撫でられた。せっかく朝、カイリが整えてくれたのに。でも、こういうことは、どこか懐かしくて好きだった。

「じゃあ、みんなで仕上げちゃおう」

 髪を手ぐしで整えている途中、突然、思いついたようにカイリが提案する。

「ね、向こうまで競争」
「えー?」
「なんだよそれ――

 カイリに従って立ち上がり、スカートについた砂を掃って準備するも、ソラもリクも気が乗らない返事で座ったまま。けれどもカイリは先を進める。

「よーい、どん!」

 始まっちゃった。走っていいのかな? 迷ったのは一瞬だけ。二人が顔を見合ったかと思えば、突然、跳ね起きて駆け出した。続いてカイリも走り出す。

「フィリア、早く!」
「ま、待ってぇ……!」

 砂に足をとられながら、急いで三人を追いかけた。




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