二つの心が削り合って、ひとつに戻ろうとしてる。暴走したΧブレードの力はいっそう威力を増し、巨大な岩壁を粉砕して、大地を深く切り裂いた。
「……いや……」
こんな近くにいても何もしてやれない己の無力さが悔しくて、気が狂いそうだった。また見ていることしかできないのか。泣くことしかできないのか。どれだけ苦しみ努力をしても全てゼアノートの筋書きのなかにあって、彼らを縛る枷にしかなれなかった。
「あっ――」
小さな枝が折れたような感じだった。片方が負けて、心がひとつになってゆく。ヴァニタスのスーツがどろりと霧散して、ヴェントゥスの鎧になった。
「ヴァニタス……!」
彼を想い、固く瞳を閉じる。憎く、それ以上に愛おしい可哀想なひと。跳ねる柔らかな金髪をそっと撫でる。初めて見た彼の髪も跳ねていたが、黒かったことを思い出した。
無垢な寝顔。もう目覚めないなんて、信じられないくらいに――。
彼の心の気配が完璧に消えて、風が吹き荒れ始める。ヴェントゥスが飛ばされぬよう強く抱きしめた。
Χブレードがボロボロと崩壊しはじめて、心が軋んだ。体が卵の殻のようにひび割れてゆく。
「ヴェン、フィリア!」
「アクア……」
アクアが呼んでいる。こんな状況でもしっかりと立ち、無事である姿に安堵した。頑張ってくれてありがとう。そして、花の世界で交わした約束を破ることを許して欲しい。
「……テラ」
はっきり掴み取れないが、テラの心も確かに感じる。どれだけ深い闇を抱えても、同じく強い光を持っていることも忘れないでほしい。
「ヴェントゥス」
身体の細胞が細かい光に変わり、風にのって飛びはじめる。神経が麻痺しているのか痛みはない。視界は端からじわじわ黒く塗りつぶされているので、じきに見えなくなるだろう。もう一度だけでいい、大好きなヴェントゥスの笑顔が見たいと思った。
「ねぇヴェン、笑って」
ヴェントゥスが選んだ未来に沿えられることは幸福だった。でも、これで良かったのだと胸を張ってマスター・エラクゥスに報告することは、きっとできない。
「……消えないで……」
縋りたい気持ちが溢れてきて、涙声になっていた。大切な人を失うのは、どんなことよりも辛い。
「誰か、ヴェンを助けて……」
自分は、ただ分かるだけ。心を癒す力はない。だから、祈るしかなかった。この広い世界のどこかに彼を助けてくれる人がいることを。
「フィリア! あなた、身体が――!?」
腕が消えてしまったので、ヴェントゥスが風に攫われた。別れを嘆く時間はない。唯一、動かせる瞳でアクアへ頷くと、アクアは惑ったが、すぐにヴェントゥスを追いかけた。
「みんなをお願い」
最期に、なんとか踏ん張り風に耐えている、名を知れなかった彼に向けて言った。
Χブレードから最後の爆発が起きる。全てが白い光に覆い尽くされて、何も分からなくなった。
★ ★ ★
銀髪の男が倒れて、ピクリとも動かなくなる。完全に気絶してしまったようだ。
キーブレードが地に突き刺し、ゆっくりと膝を折る。しばらくすると地が揺れて、目の前から白い光が迫ってきた。
光に包まれるとき、友の笑顔が次々と思い出される。忘れまいと深く記憶に刻みこんだ。
衝撃が収まると、爆発の名残か輝く粒子が周囲にふわふわ漂う。重苦しい黒雲が動きだし、舞台の幕引きのように空にポッカリ空いていた穴を埋めてゆく。
耀きがゆっくり絞られていって――失われた。薄暗くなった世界に独り取り残されてゆく。
「アクア、ヴェン、フィリア――」
静寂に包まれた世界の中で、改めて固く誓う。
「俺がいつの日か必ず――」
それきり鎧の男は沈黙し、世界から生あるものはいなくなった。
★ END ★
2013.12.21
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