綺麗になった小屋の中、フィリアは小さな椅子にソワソワと腰かけていた。

「ヴェンはまだかな……だいじょうぶかな?」

 白雪は二階にあった寝室で眠ってしまった。今はすることもなく、ただヴェントゥスの帰りを待っている。

――!」

 外からの気配に顔を上げる。ヴェントゥスかと思ったがこれは複数。アンヴァースだろうか?
 ノブが動いた。とっさにフィリアは身構える。開いた瞬間を狙って魔法を放てば先手が打てるし一点集中ができるだろう。
 扉がゆっくりと開いてゆく。フィリアはエアロを唱えるため魔力を溜める……。

「女の子がいるぞ?」
「え……?」

 ヴェントゥスでもアンヴァースでもない。そこにいたのは、七人のドワーフだった。










 ドワーフたちはフィリアを見ると、ものめずらしそうな顔でぞろぞろと取り囲んできた。

「おまえさんは誰だ? ここは俺たちの家だぞ?」
「勝手に人の家に上がりこんで、泥棒かっ!?」
「おいおい、女の子相手に怒鳴るなよ」
「悪い子には、ふあぁ……見えないけどなぁ」
「ふぇっ、ふぇーっ!!…………どうも」
「かわいいなぁ。あっ、こっちを見ないでくれ。見られるのは慣れてないんだ」
「……」
「えぇっと……」

 口々に騒ぐドワーフたちに困惑してしまう。とりあえず、この小屋は彼らの棲家だったようだ。

「勝手に上がりこんでしまってごめんなさい。私はフィリアといいます。森でア……魔物に襲われてしまって」

 説明すると、ドワーフたちは「ああ、あいつらか」という顔で頷いてくれた。

「家の中が、綺麗になっているぞ!」

 嬉しそうにドワーフのひとりが言った。

「あんたが掃除してくれたのか?」

 別のひとりに言われて気付く。現在彼らの寝床と思われる場所では、白雪がベッドの大半を占領して眠っている。

「あの! 今、私の他にもうひとり女の子がいるんです」
「何? もうひとりいるのか?」
「はい。白雪が二階で……」
「白雪!? この国のお姫さまじゃないかっ!!」

 メガネをかけたドワーフが叫ぶと、ドワーフたちは競うように二階へと駆け上がって行ってしまった。

「お姫さま?」

 フィリアはポカンとしながら呟いた。










 七人のドワーフたちはすぐに白雪と打ち解けて一階へ降りてきた。ドワーフたちは全員白雪のことを姫と呼び、その美貌にうっとり見とれてしまっていた。

「フィリア、おはよう」

 階段を降りてきた白雪に、フィリアは戸惑いながらも普通に接することにしてみた。

「おはよう。あのね、白雪ってお姫様だったの?」
「え? ええ、言ってなかったかしら?」

 あっけらかんと返されてはどうしていいのか困ってしまう。やはり、今からでもちゃんとした態度に改めるべきなのだろうか。
 全員が一階に降りたとき、ヴェントゥスが帰ってきた。短い間に大変身した小屋の様子に驚いている。

「だいじょうぶ、もう近くに魔物はいないよ。あ」
「ヴェン! おかえりな――
「またおまえか泥棒め! なんでおまえがここにいるんだ!!」

 ヴェントゥスに声をかけようとしたとき、ドワーフの怒鳴り声に遮られてしまった。
 “また”?

「待って。私、フィリアと彼に助けてもらったの」
「白雪姫、騙されてはいけません」

 “騙す”?
 周りのドワーフたちは警戒するようにヴェントゥスを睨みつけている。どうやら彼らはすでに面識があるようだ。それも、とても悪い印象で。

「お願いだから追い出さないで」
「私からもお願いします。ヴェンは私の大切な友人なんです」

 白雪と一緒に頼み込むとドワーフたちが「どうする?」と相談し始めた。その間にヴェントゥスに話しかける。

「ヴェン、見回りおつかれさま。ケガしなかった?」
「ああ。もうこの辺りに魔物はいないよ」

 ヴェントゥスがそう答えると白雪が胸を撫で下ろした。

「もうあんな怖い思いをしなくていいのね、ありがとう……そういえば私、二人に助けてもらう前にとっても恐ろしいめにあったの」

 ふと、思い出したように白雪が言う。

「何があったんだ?」
「もしかして森の木のこと?」
「いいえ。森に入る前のことよ」

 白雪が端正な顔を悲しそうに曇らせながら、両手を胸の前で握り合わせる。

「森の向こうの花畑で鍵のような剣を持った男の人に会って、見たことのない魔物に襲われたの」
「鍵のような剣?」

 恐らくそれはキーブレード。キーブレード使いはマスター・ゼアノートのように世界に何人もいるらしい。魔物……そのキーブレード使いもアンヴァースを?

「まさか、テラ?」
「えっ?」

 小さく、しかしはっきりとヴェントゥスが呟いた。

「その男が魔物を使って姫を襲わせたのでは?」
「テラがそんなことするはずないっ!!」

 メガネをかけたドワーフが白雪に言い、ヴェントゥスが大きな声で否定した。

「知り合いなの?」

 白雪がフィリアに問う。“白雪が花畑で会った男はテラ”と決め付けられて話が進んでいることに疑問を感じながらフィリアは白雪に頷いた。

「テラは私たちの友達だよ。私たち、テラを探しているの」
「そうだったの……。そうね、二人のお友達ならそんなことするはずないわね」

 白雪が頷くと周りのドワーフが「信じちゃだめだ」とか「俺たちが白雪姫を守るんだ」とか騒ぎ出した。
 フィリアがヴェントゥスの方に目を移すと、ヴェントゥスは悔しそうに強く拳を握りしめている。

「俺、行って確かめてくる!」
「あっ、ヴェン!」

 ヴェントゥスは怒鳴るように叫び、小屋を飛び出してしまった。

「待ってヴェン! 白雪、ドワーフさんたち、さようなら!」

 どうしてこうなってしまったのか。話についていけないまま、フィリアもヴェントゥスを追いかけてドワーフたちの小屋を後にした。




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