小屋への戻り道でもたくさんのアンヴァースたちが現れた。
 なんとかあちこち逃げ回る白雪の手を引いて、小屋と小川のあるところまでたどり着く。どうやら、ここにはアンヴァースは現れないようだ。
 小屋の扉を開くと、むわっとした埃の臭いが鼻を衝いた。長い間放置されていたのか、家具はあちこちに散らかり天井にはクモの巣が張っている。
 あまりの荒廃ぶりにフィリアが唖然としていると、ヴェントゥスが言った。

「ここなら安全だと思うけど、念のためこのあたりを見回ってくるよ」
「ひとりで大丈夫?」
「ああ。フィリアはここで白雪についててあげて」
「わかった。気をつけてね」

 了解すると、ヴェントゥスは小屋の外へ駆けて行った。

「これはひどいわね。住んでいた人は、きっと掃除をしたことがないんだわ」

 小屋の中を観察していた白雪が、テーブルの上を見て呟いた。小さなテーブルの上には皿やフォークだけではなく、鍋やツルハシ、靴下までもが乱雑している。

「このままじゃ休めないね」
「ええ。しかたないわ、お掃除しましょう」

 白雪が落ちていた箒を拾う。フィリアはそれに頷きながら埃のついた窓を開けた。





★ ★ ★





 澄んだ小川に小魚たちが泳いでいる。きらきら光る水面を見つめながらヴェントゥスは小川に沿って歩いていた。先程フィリアとたくさん倒したおかげか、アンヴァースはほとんど現れない。
 川岸にちょうど大きな岩をみつけ、休憩がてら腰掛けた。足下を水音がさらさらと流れていく。

「ふぅ……」

 落ち着くと、勝手に溜息が漏れた。胸につっかかっていることがいくつもあるせいだろうか。
 外の世界に出る術がないフィリアが、どうして自分を追いかけてこられたのかとても不思議だった。訊ねた時、フィリアは視線を右に動かした。最近あまり見る機会がなかった隠しごとをするときのフィリアのクセ。そんなに言えない方法なのかと問い詰めたい気持ちもあるが……。

「俺にも、フィリアに言ってないことあるしなぁ」

 ぼやきながらあの仮面の男のことを思い出した。こちらの質問には一切答えず、意味深な言葉ばかり残していったあの男。

「テラを追ってお前の目で確かめるんだ。テラがテラでなくなるところをな……」

――!!」

 あの時の怒りが蘇り、衝動的に石の上から立ち上がる。足元で大きく水が跳ねた。

「早くテラに会わないと」

 白雪にはフィリアが付いている。このままひとりで先にテラを探しにいくことも考えたが、それではフィリアを裏切ってしまうことになる。

「フィリアたちのところに戻ろう」

 そう判断すると、ヴェントゥスは小屋へ向かって駆け出した。




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