「守る――かぁ……」

 テラと前庭の端に座りながら、掌を見つめて呟く。ここで休憩する時の定位置だ。普段より二人ほど足りないので、少し肌寒い感じがする。

「どうした?」

 空を仰いでいたテラがこちらを見た。逆立てられた前髪が穏やかな風に揺れている。

「テラ、外の世界っていったいどんな感じなんだ?」
「外の世界か?」
「テラとアクアは、任務で何度か見てきたんだろ? 俺、“世界の光を守る”って言われても、いまいちよくわからないんだ」

 この空の向こうにあるもの。存在は知っていても、今はただ遠すぎる。
 正直な感想を伝えると、テラがゆっくり頷いた。

「なるほど……確かに、今のヴェンには難しいかもしれないな」
「なんだよ、子どもだからって言いたいのか?」
「いやいや、そうじゃない」

 テラはくしゃりと笑みを作って、すぐに思いついたように顔を上げた。

「ヴェンの身近にもいい例がある。――フィリアだよ」
「フィリア?」

 理解できなかった俺は、呼びなれたその名を繰り返した。テラがもう一度頷いて言う。

「フィリアはキーブレード使いじゃないからな」

 普段、触れることを躊躇っていた話題。俺はすかさずテラに訊いた。

「なぁ、どうしてフィリアだけキーブレードを使わないんだ?」
「キーブレードは選ばれしものにしか使えない」

 使わないのではなく、使えないのか。選ばれる基準って何なんだろう。

「俺もヴェンのように外の世界に出るまでは、フィリアを守ると思って修行していたんだ」
「どうして?」

 確かにフィリアはキーブレードを持たないけれど、魔法は俺よりも得意だし、弱い者扱いするなと怒られた時だってある。

「キーブレードを使えるのは俺たちだけだ。他の世界の人たちには使えない」
「外の世界の人たちは、フィリアとおんなじだってこと?」
「ああ。それともちろん、大切な友人だからってこともある」

 まだもうちょっと、すんなり納得できない。俺は腕を組んで更に考えた。
 テラにとって、フィリアは守るべき人。守る……守る……守っている……?

「あっ、だからいつも山道でフィリアと手を繋ぐのか?」
「ん? あぁ……そう強く思い始めたのは、そこからかもしれない」

 テラが曖昧に笑い答える。せっかく得た手がかりだ。もっと詳しく知りたかった。

「手を繋ぐことが守ることなのか? いったい、何から守ってるんだ?」

 テラが大きく笑う。そんなにおかしなことを聞いたつもりはないのだが。

「何がおかしいんだよ」
「いや、何から――と聞かれるとな」

 意味深な苦笑。知りたいと告げれば、テラがわかったとまた笑う。

「あれは、ヴェンがここに来るよりもずっと前の話だ」




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