とても寒く、静かな場所で眠っていた。
ふと、ぬくもりを感じて意識が浮上してくる。呼び声もする。いつかのように、目覚めを促す優しい声。
目を薄ら開くと、本当に瞼を開いたのか疑うほどに真っ暗で何も見えなかった。水の中のようにゆっくりと、頭から底へ底へと体が沈んでいっている。
ここはいったい――? 思い出せないが、以前も来たことがあるように思える。
大きくて丸いステンドグラスの上に着地した。目を閉じた自分とヴァニタスの姿が描かれている。
ヴァニタスと融合したんだ。でも、それならどうしてこんな場所に居るのだろう。いったい何が起きている?
「俺たちの融合は不完全だった」
素早く振り向くと、静かに降りてきていたヴァニタスがつまらなそうな声音で言った。もうあの仮面はつけていなかった。自分であるはずなのに他人のような顔は、憎しみと同時になぜだか親しみを覚える不思議な気持ちを抱かせる。
「これではΧブレードが欠けたままだ……」
黒い闇がじわじわと滲んでいる、巨大な剣。柄がステンドグラスの中心に描かれているものと酷似していた。
「今一度、完全なるΧブレードの誕生を」
重い剣を持ち上げて、切っ先をこちらへ向けてくるもう一人の自分。こいつは、なぜ融合が不完全だったのか解っていないのだろう。無理矢理にでも光と闇が戦えば出来上がるとそう信じている。
ヴァニタスにゆるく首を振りながら、キーブレードを握りしめた。
これがゼアノートたちの計画を阻止する最後のチャンスだ。方法は分かっている。
「俺はおまえを倒して、Χブレードを破壊する」
ヴァニタスはこちらを馬鹿にするような哄笑をあげた。
「Χブレードは俺とおまえの心からできている。こいつを砕けばおまえの心も消えるぞ」
「それでも構わない。テラとアクアと、フィリアを救えるのなら」
は、と笑い捨てたヴァニタスが静かに剣先を下げた。
「またお友達のためってやつか」
「おまえにはわからないだろ!」
カッとなって言い返すと、ヴァニタスから笑みが消える。
「友達が、守る者がいるから強くなれる――」
胸元に手を添え、心に浮かぶ者たちのことを想った。強い気持ちが湧き上がってくる。
「つながる心が、俺の力だ!」
ヴァニタスとキーブレードを向け合い、同時に駆けた。
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