アクアと彼が、Χブレードを掲げるヴェントゥス=ヴァニタスのもとへ何度も立ち向かってゆく。

「がんばって……」

 ヴェントゥスの心はヴァニタスの心と融合して、心の底で眠っている。だから心の武器、キーブレードでなければヴェントゥスまで届かず、目覚めさせることはできないだろう。己にできることは、彼らをサポートすることだけ。魔力は無限と同じほどある。彼に向けて攻撃魔法は撃てないものの、究極に分類された難易度だろうが思うがまま、完璧に操れる自信があった。
 だが戦う彼らの姿に、胸の奥の奥のいちばん奥――きっと心がある場所が痛む。希望と理性の葛藤の末、自分で決断し望んだことなのにひどく恐ろしく、悲しみに耐えきれなくなってしまいそうだ。

「うわあぁっ!」

 悲鳴に顔をあげる。Χブレードから発生した衝撃波によって、アクアたちは吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられていた。

「ふたりとも、あっ!?」

 回復魔法を唱えようとしたとき、剣を振るうだけで発生する強風を向けられて、乾いた土の上を葉のように転がされてしまう。
 ひとり無傷で立つヴェントゥス=ヴァニタスがアクアたちの方へ歩み寄り、笑って言った。

「どうした。もう終わりか?」

 ヴェントゥス=ヴァニタスからは嘲るような、岩陰にいるアクアたちからは疲弊と苦痛が伝わってくる。

「……このままじゃ、いけない……」

 傷つくたびに癒す。短時間に幾度も繰り返していたら、身体はもっても精神が擦り切れてしまう。
 必死に考えている最中に、鎖の音が聞こえた。ポケットからこぼれたつながりのお守りを見るなり、あぁ、と声がもれる。

「テラ、アクア……ヴェントゥス」

 おまもりを両手で包み、祈りを籠める。
 たった一度だけでいい。どうか届けてほしい。

「うおおおおおっ!」

 アクアが咆哮を上げながら、キーブレードを構えて走った。待ち構えたヴェントゥス=ヴァニタスが剣を振り上げる。

「何度やっても同じだ!」

 二つの凄まじい力がぶつかって、大きな衝撃波が発生した。稲妻のように激しく強烈な力を前に、とても目を開けていられない。

「なにっ!?」

 ヴェントゥス=ヴァニタスの声と、体にヒビが入ったような感覚はいっしょだった。
 金色の剣は一瞬で輝きを失い、欠けて黒ずんだ姿になった。アクアが振り抜く力に負けて、ヴェントゥス=ヴァニタスから手離される。弾かれ倒れたヴェントゥス=ヴァニタスが気絶してしまったので制御するものもなく、Χブレードは宙に浮かんだまま、白い光線を放ちはじめた。それは周囲を無差別に破壊し、何人も寄せ付けようとしない。
 このまま壊れようとしているのか。それとも再生しようとしているのか。

「今なら、私でもヴェンに届くかもしれない……」

 この光に焼かれたら火傷程度ではすまないだろう。アクアも身を守るだけで精一杯のようだ。意を決して走り出した。

「フィリア!? 無茶しないで!」

 獣のように手を地面に付き姿勢を低くして、それでも何度か光に掠められかけながらヴェントゥス=ヴァニタスの傍へたどり着いた。幼子のように身を丸くして倒れている姿に触れると、闇に包まれた小さな光の心を見つける。

「起きて――

 いつも眺めていた寝顔を抱きしめ、耳元に唇を近づけて囁いた。

「起きて、ヴェン」




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