メガフレアの熱による空気の歪みが収まってゆく。熱風によって顔に張り付いた髪に構う暇もなく、目を凝らして周囲を見回した。
 メガフレアの炎が焼き尽くす寸前に、男の心の気配がふっつりと消えた。倒したという手応えもない。あの業炎から逃れられる場所も、隠れられる場所もないはずなのに。
 だから、至った結論はひとつ。

「……別の世界へ移動した……?」

 たとえば、闇の回廊が扱えられれば可能だろう。
 追い払ったといえば聞こえはいいが、一抹の不安が残る。去ることもできるなら、再び現れることも可能なはずだ。また邪魔をされるかもしれない。倒せるならば、絶対に倒しておくべき相手だった。
 唇を噛んで悔やんだあと、それでも一点目指して走りはじめる。わからないことを延々と考えているよりも、今はとにかく、ヴェントゥスのもとへ急がなければ。
 先ほどまで竜巻が渦巻いていた荒野は不気味なほど静まり返り、今は戦いの音すらしなかった。残る手がかりは、いつの間にか現れた不思議な強い力の気配。今いる場所からは結構離れた場所にあるが、肌に感じるほどその存在を感じていた。
 自分にとって、良いものが待っているとは思えない。けれど、誰かがいるはずだ。



 岩の林の中を走り続け、強い光を宿した心を察知できたのはそれからしばらく経ったあとだった。けれど、探しているヴェントゥスやアクア、テラ、そしてマスター・エラクゥスでもない。光ならば味方だろうか。それとも、あの男のように自分が見知らぬ敵だろうか。 避けようか迷ったが、光の心も力のもとへ向かっていた。どうせこのままの進めばかち合うことになるだろう。

――だれ!?」
「うわぁっ」

 出会い頭に鋭く問い、飛び上がる丸い黒耳に力が抜けて笑顔がこぼれた。

「いま、ここで君に会えるなんて」

 キーブレードを持つネズミの彼。そういえば、名前を聞いていなかった。
 彼は大きな瞳を柔和に緩ませ、後頭部を撫でながら見上げてきた。

「フィリアか。びっくりしたよ」
「ごめんね。誰の心なのか、わからなかったから」

 謝りながら、彼の側に歩み寄る。こんな状況だ。とても心強かった。

「ねぇ、ヴェンがどこにいるのか知らない?」
「いや、僕はついさっきここに来たばかりで――最初に会ったのが君なんだ」
「そう……」

 未だ静寂に包まれた世界。彼以外の心の気配を見つけられない。皆、気を失っているのか、何かに遮られてしまっているのか、それとも……。最悪な想像が膨らんできて、考えを追い出すように頭を振る。

「ヴェンが、大変なのかい?」
「うん。はやく探さないと」
「わかった。僕も手伝うよ」

 詳細を話している暇はないので、察してくれたのはありがたかった。
 目指していた場所に指を向ける。

「あっちの方角に何かがあって、そこにヴェンか……誰かがいると思う」
「僕が目指していた方向と同じだね。さっき大きな光の柱が昇っていたから、気になっていたんだ」

 肌に感じるぴりぴりしたものが強くなってゆく。行かない方がいい。見ない方がいい。知らない方がいい。きっと傷つくことになるからと、怖いと思う気持ちが囁いてくる。それでも。

「……行こう」

 頷き合って、彼と共に走り出した。




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