「あっ! つっ、うあっ!?」
ひっきりなしに与えられる苦痛に悲鳴を上げた。急所ではなく、輪郭を削るように腕や足の端を弾がいくつもかすめてゆく。魔力か鎧があれば防げた傷だ。リフレクすら満足に張れず、体じゅうが血まみれで、服はボロ布のようになっていた。
痛みと衝撃に耐え切れず地面へ倒れると、岩上から男が降りてくる。
「しぶといねぇ」
呼吸するので精一杯で、嘲笑に言い返すこともできない。悔しい。悔しい。ここで時間を費やしている場合じゃない。早くヴェントゥスのもとへ行かなくてはならないのに。
「ヴェン……行か、ないと……」
名前を口にし、顔を思い浮かべて必死に力を振り絞った。血のぬめりで手元が滑る。
「おっと」
「あ、ぁっ!」
起き上がりかけたとき、男に左肩を踏まれ地に縫いつけられる。靴裏がぐりぐりと傷口に当たり、左の指先までビリビリ痺れ、目の前が真っ赤になった。
「やめとけよ。諦めて、ここで寝ていた方が楽だぜぇ?」
「ぃあっ……だ、いやっ、だ! 絶対に、諦めなぁ、あぐっ!」
耐え難い痛みに気を失いそうになるのを堪え、雷の魔法を右掌に集める。男と触れ合っている状態なのでこちらまで巻き込まれてしまう恐れがあるが、一番得意な攻撃魔法でないと威力が落ちる。
「い――かずちよ!」
弱々しいが、それでもありったけの魔力を込めてサンダーを男の顔面目掛けて撃ち放った。男は避けずにガンアローで守る。サンダガであればガンアローをはじき飛ばし男の体を黒焦げにできただろう。帯電はしたようだが、払う動作であっけなく電流は空気に霧散した。
「そん、な……」
「今の静電気で満足したか?」
ガンアローがゆっくり右足の膝皿へ向けられる。
「いいかげん、イイ子にしてろ」
「……!」
撃ち砕かれる予感にとっさに瞳を瞑ったが、次に受けた衝撃は大きな地の揺れと耳鳴りだった。どこかで途方もないほどの力が――キングダムハーツとは違うが、似ている力の気配がした。
「……待ちわびたぜ」
男が空を見上げてつぶやく。いったい何が? いや、今はどうでもいい。
癒えろ。
体が緑に輝きに包まれ、全ての痛みを消し去った。
男がはっとこちらを見るが――遅い。
凍れ。
一瞬にして術者である自分を除き、地面や岩、周囲すべての表面がアイスバラージュによって凍りついた。氷柱が男を串刺しにせんと突き出すが、その前に男が消える。
「おまえ……」
ワープで逃げた男は冷気に襲われた片腕を押さえながら舌打ちをした。
燃えろ。
自分の周囲に三つの火柱が現れる。レイジングストーム。岩をも溶かす火柱を従え共に男のもとへ突っ込んだが、またしてもワープで逃げられた。
「じじいの言っていたとおりか。面倒なことになったな」
男は急に引け腰な態度になった。逃げるつもりか。
「…………」
逃がさない。ゼアノートに与する者。絶対にここで倒す。彼のワープの移動距離はかなりありそうだ。それを覆えるほどの広範囲魔法は――。故郷の魔法書の内容を思い出す。魔力の溜めも言の葉の力も、練習すら必要ない。思うだけで瞬時に扱えるという確信があった。
「燃えつきろ!」
メガフレアの業炎は、視界の全てを白みがかった赤で染め上げた。
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