轟音とともに天上から光が降りてきた。
己の血の匂いを嗅ぎながら、乱れた呼吸を整える。幾度も叩きのめされたため、へしゃげてしまった兜を乱暴に脱ぎ捨てた。光と入れ替わるように厄介なトルネドがすっかりいなくなったので、今ならキーブレードライドでゼアノートの元へたどり着けるだろう。
ゼアノートの立つ崖上に飛び、傷だらけの鎧ごとキーブレードを解除する。ゼアノートはすでにヴェントゥスを手放していた。背後にヴァニタスを控え、薄笑いを浮かべながらこちらを見つめている。
「おまえならば、たどり着くと信じていた。光と闇の壁を超えて私の元へ――待ちわびたぞ、テラ」
勝手なごたくを述べるゼアノートに嫌悪を抱くのを隠せない。自分が力を求め戦ってきたのは、決しておまえのためなどではない。
「俺には友がいる」
キーブレードの光が、心に呼応し激しく渦巻く。
「答えろ、ゼアノート……あいつの心に何をした!」
いつか、ヴェントゥスを救うため仕方なかったことだと彼は言った。
ゼアノートは顔色も変えずに、いけしゃあしゃあと答えた。
「心の闇を抜き出してやっただけだ。だが、ヴェントゥスの心は耐えられなかったようだがな」
そのまま金の視線はヴァニタスの手元へ動く。
「そして今、またひとり――」
「フィリア!?」
ヴァニタスにより地面に横たえられたフィリアは死人のような顔色で、ひどく衰弱しているように見えた。まさか、ゼアノートたちに何かされたのか。
「思ったよりは、強い心に育っていた。だがそれも、このままでは消滅するのみ」
大切な人たちが、次々、傷つけられてゆく。たったひとりの望みのために。
「――ゼアノートッ!!」
怒りのままに、テラは吠えた。
★ ★ ★
「ヴェン、だいじょうぶ?」
氷漬けにされたヴェントゥスをなんとか受け止め、意識があるのを確認する。鎧のおかげで、落下途中、岩壁に擦れても砕けなくて済み、火傷も凍傷も見た目よりひどくはなかったようだ。しかし、時間が経てども一行に衰えぬ強力な凍結の持続性は、簡単に解除できそうになかった。
ヴェントゥスの回復に必要な魔法の威力を計算していると、突然、雷鳴が世界を揺らし、巨大な光が現れる。
「……!」
それを見上げ、言葉など出てこなかった。なんて眩くて、冷たく温かな光なのか。その存在は鮮烈で、神がかっているとさえ思った。
周囲が青白く照らされてゆくのに気を取られていると、うしろから男の声が話しかけてきた。
「そいつの面倒は俺にまかせて、あんたはテラと戦ってくればどうだ?」
痩せた男だった。顔には右目を隠す眼帯と、左頬を裂いた傷跡があり、かっちりとした服装に、首元には赤のスカーフを巻いている。
「なにしろテラはマスターの仇なんだろ?」
煽り立てるような口調。蔑むような笑みといい、いつの間に現れたのか知らないが、ゼアノートの仲間だろう。
「……おまえは?」
「…………」
訊ねたが男は名乗ろうとせず、ニヤニヤと笑い続けている。
「おまえたちがここへ来さえすればよかったんだ。あとはテラの目の前でおまえを始末すれば、テラは闇に堕ちる――目的達成ってハナシだ」
「だまれ!」
ヴェントゥスが怒鳴ると、男は大げさに驚いたフリをして彼をからかった。
「こんな小僧でも、いっぱしのキーブレード使いってとこか。いい眼で睨みやがる」
「私たちの心の絆は、おまえたちの策ごときで壊されるほど脆弱ではない!」
ヴェントゥスを拘束する魔法をすぐに解除してやりたかったが、この男を倒すのが先決だ。そっとヴェントゥスを降ろし、男の方へ向き直った。
「テラが闇に堕ちるものか!」
キーブレードを召喚しながら叫ぶ。名を呼んでくるヴェントゥスの声を背で聞きながら、両手に銃を構えた男に向かって走り出した。
原作沿い目次 / トップページ