煙の中は見覚えのある荒野の世界――傷つき、倒れている彼の姿が写っていた。

「ミッキー!」
「王様!」

 声が届かないとわかっていても、呼ばずにはいられなかった。
 どうしてそんな場所で? どうしてそんな状態に?――詳しいことが分かる前に、煙がさっと晴れてしまう。
 アヒルの男が一歩身を乗り出した。

「イェン・シッド様! 王様はどうなったんですか?」
「強力な闇の力でこちらの魔法が遮られてしまった」

 彼の側に、それほどに強い闇が潜んでいる。

「王様の居場所を教えてください! 僕たちで王様を助けに行きます!」

 犬の男が背筋を正し、きっぱり言う。

「しかし、おまえたちではかなわないぞ」
「僕たちは王様に仕える騎士と――
「魔道士だ!」

 眩い光と共に、二人の手にそれぞれ盾と杖が現れた。強い決意に満ちた二人に対し、イェン・シッドが難しそうに目を瞑る。
 こうしている間にもフィリアが自分を待っている。けれど、危機にある友人を放っておくことなどできないし、フィリアだってそんなことは望まないだろう。

「俺が行くよ。あの場所は見覚えがある」
「じゃあ、僕たちもいっしょに」
「俺、一人でだいじょうぶ。ミッキーには前に助けられたから、今度は俺が助けたいんだ」

 二人がまたがっくり俯く。
 自分なら、どんな強敵が潜んでいようとどうにかできる自信はあるし、いざとなったら彼を抱えて逃げることだってできる。その為には、できる限り人数は少ない方がいい。

「まかせて。必ずミッキーを連れて戻るよ」
「うむ。頼んだぞヴェントゥス」

 イェン・シッドに頷いて、部屋を走り出た。





★ ★ ★





 記憶の中にある冒険の物語を片っ端から話しているうちに、ロストボーイズたちは全員、すっかり寝入ってしまった。
 フィリアはそっと立ち上がり、布で区切られた奥へ向かう。
 控えめだけれども、カリカリと何かを引っ掻くような音がずっとこちらから聞こえてくる。

「ピーター・パン……?」

 そうっと呼びながら布をめくると、こちらに背を向ける格好で、ピーター・パンが熱心に紙へ何かを書き込んでいた。

「フィリアか」
「何をしてるの?」
「宝の地図を作っているんだよ」

 手招きされたので、彼の手元を覗き見る。いくつか見覚えのある特徴をもった地形に印があちこちを導くように描かれていた。

「宝って、今日作った宝箱のこと?」
「そう。せっかく作ったんだ。あれを使って宝探しをしようと思ってね。フィリアも、お宝の番人役でいいから参加してくれよ」

 尚も印を書き込みながら、ピーター・パンが笑う。

「ところで、フィリアはまだ寝ないの?」
「うん。これからちょっと出ようと思うんだけど……この近くで、水が流れている平野を知らない?」

 ピーター・パンが仰天顔で振り向いた。

「今から? そこで何をするつもり?」
「寝る前に、軽く修行したくって」
「修行だって!?」

 大きな声に、しーっと口元に指を立てて説明する。

「日課なの。眠れば魔力は回復するんだから、寝る前に残った魔力で練習しなくちゃ、もったいないでしょ?」

 これで通じるかと思いきや、ピーター・パンは未だ不可解といった面持ちだ。

「今日くらい、休むわけにはいかないの? ひとりで出歩いて、もし魔物が出たら危険だよ」
「昼にたくさん倒したおかげで、気配が大分薄くなってるからだいじょうぶ。それにこれは、一日でも欠かすわけにはいかないから」

 ヴェントゥスに置いていかれたショックでずっと岬にいて戦わなかったため、魔力が回復し、余っている。
 ピーター・パンが大げさにため息をついた。

「海岸をずっと行くと、虹の滝って場所がある。そこなら水もあるし、渓谷よりもずっと楽に着けるはずだよ」
「ありがとう。……それとね、ピーター・パン」
「今度はなんだい?」

 うんざりした声は、こちらではなく地図を見つめながら発せられた。

「もし私が帰ってこなかったとしても、心配しないでね」
「それは、どういう意味?」
「その時は、きっとヴェンが迎えに来てくれたときだから」

 これだけは、少し嘘。彼らを巻き込まないための、一応の保険だ。
 首を傾げながらも承諾の返事がされた後、静かに布を戻し、大木を出た。




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