夜の12時。紫原は眠れないでいた。何度目を瞑っても寝返りをうっても眠れなかった。この状態はどこか覚えがある。それはまだ高校に入りたての頃であり、その時もこんなふうに眠れないでいたのだ。その時どうやって眠れたんだっけ、とぼんやり紫原は考える。考えて考えぬいた後、やっと結論が出た。そして携帯を取り出す。こんな時間に迷惑かなあ、とも思ったがこの前の経験からして大丈夫、と自分に言い聞かせるように紫原は赤司、と映し出されている画面で通話ボタンを押した。1コール、2コール、と続いてプツ、と音がする。

「もしもし、敦か?」
「うん。赤ちん、ねてた?」
「いや、まだ寝ていなかったよ。どうしたんだい?」

良かった、と紫原は胸をなでおろした。赤司の優しい声にも安心して「ねむれなくて」と訳を話すとまた優しい声で「そうか、なら少し話でもしようか」と言ってくれた。紫原は珍しく目を輝かせて「うん!」と声を出す。それに電話の向こうの赤司も微笑ましく笑った。

そこからは紫原が色々部活での出来事、学校での出来事、色々話すのに対して赤司はちゃんと一つ一つ聞いて相槌をうっていた。そこで紫原がぴたり、と話すのをやめる。赤司は不思議に思い「敦?」と名前を呼んだ。

「…赤ちんが、いないの」

泣きだしそうな声、だった。思わず赤司も目を見開いた。それほどまでに紫原の声は弱々しく、今にも泣き出しそうな声だったのだ。「…敦」もう一度名前を呼ぶが返事はない。返事がない代わりに携帯の向こうですん、と鼻をすする音が聞こえた。

「赤ちんがね、ずっとずっといないの。学校へいってもいないし、バスケしててもみえないの」
「…」
「寝ちゃえば夢で会えるかなって思ってても、全然でてくれないし」
「…敦、」
「…あいたいよ、あかちん」

赤司はぐ、と携帯を握りしめた。僕も会いたい、出来れば今すぐ敦の元へ行って抱きしめてやりたい。一緒にバスケもしたい。またあの笑顔で「赤ちん」と呼ぶのを見たい。言葉では言えていないが赤司はずっとずっと、紫原と同じくらい。いや、それよりも紫原の事を想っていた。だから、何も言えなかった。これ以上何か言ってしまえば更に会いたくなりそうで、自分自身が抑えられなさそうで、何も言えなかった。そしてその無言が続いていると「ごめん、ね、迷惑かけちゃってごめんね赤ちん」鼻声でそう言っているのが聞こえた。そして赤司は絞り出すような声で名前を呼ぶ。

「敦、今の僕は敦にしてやれる事はないけれど、もう少し、待っててくれないか」
「…赤ちん?」
「待ってて、くれないか」

絶対に迎えに行く。という意味を込めて言えば紫原はそれが伝わったのが「…うん、頑張ったらご褒美、くれるよねー?」と先程より明るい声で答える。それに赤司は安心し「ああ、勿論だよ」と言った。


眠れない貴方に子守唄という名の愛の言葉をうたうよ

「おやすみ赤ちん」
「おやすみ敦」


121003 赤紫



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