「好きだ」

何の前触れも無く、ただ二人でバスケをしていただけだというのにそう告げられたのは今現在だ。一言、そう言い放って彼はまたボールをゴールに簡単に入れてしまう。俺はただ何も言わず、言えずにボールを奪われた事にすらも気づかずにその場に突っ立っていた。ああ、もしかして今のはボールを奪う為に言ったのだろうか。

「峰ちん、遂にセコい真似もするようになったんだ」
「馬鹿言ってんじゃねーぞ。俺はいつだって正々堂々だ」

確かにそうだ。バスケ馬鹿な峰ちんがバスケで不正をする事を一番嫌っているというのは彼を知っているものなら誰でも知っていることだ。じゃあ、なんだろう?また思考を巡らせてみたが答えは出ない。そのままぼけっとしていると峰ちんの声と共にボールが飛んできた。

「もう一回すんぞ」
「飽きたんだけど」
「んだよ、逃げんのか」
「…なわけねーじゃん」

これが挑発だと理解するのは思いっきり峰ちんと1on1をした後だ。


終わる頃にはどっちも息が切れて空はもう暗くなりかけていた。徐々に息が整ってきて落ち着いた頃に脳内に昼の峰ちんの言葉がリピートされる。あのおっぱい星人がどうもホモなんて思えない訳だし、彼なりのジョークだと自己解決をしてさっさと帰ってしまおうと思っていた所だ。

「なあ」

用意していたスポーツドリンクを飲みきって、俺より少し下にいる峰ちんを見る為に視線を下げた。峰ちんはその青い目でしっかり俺の目を見ている。小さく「なに」と投げかけると俺を見たまま「俺わりとマジで言ったんだけど」視線をそらさず真顔で言う峰ちんの表情にいつものようにふざけた様子は見られない。考えなくても昼間の事なのだろうと理解した。

「じゃあ、峰ちんはホモなんだね」
「ちっげーよ馬鹿」
「ちがくないじゃん、なに?峰ちんには俺が女に見えるくらい馬鹿なの?」
「あほか」

あほなのは峰ちんのほうでしょ、口を開こうとして失敗した。峰ちんが俺の服を思いっきり引っ張って乱暴に俺のくちに噛みつく。所謂キスってやつなんだろうけど、どうも噛みつかれている気分だ。その内、開いた口に舌がぬめりと入ってきて流石の俺も驚いた。そして何故か否定をしない自分にもっと驚いた。心のどこかでまあいいか、なんて思ってる自分がいたりする。たぶんこれが違う人なら殴ってた。

「言ったろ、正々堂々だって」
「…ばっかじゃないの」


ほら君にはイエスしか残されていない


130210:花畑心中

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