「赤ちんってさあ、胸揉んだことある?」

握っていたボールペンが悲鳴を上げた。笑顔で固まってしまった俺をそっちのけに紫原はのんきに菓子を頬張っている。理解をする時間を与えてくれたのかと思うが紫原に限ってそんな事は無い。間を置いてどう答えるべきかと思考を再開した。胸、とは。その胸なのか、まあ一般的に考えればそうだろう。「ない、な」過去を振り返った結果、俺はまず女と付き合った事は無い。答えは簡単、必要ないと思ったからだ。まあその俺が今こうやって紫原に思いを寄せているというのは大変おかしな話であるが。「ふうん」この反応はどういう事だろうか。若干気になったがとりあえず目の前のやるべき事を進ませるべきだと思い、無理やりそちらに意識を逸らそうと努力をする。

「じゃあさー俺の胸、揉んでみたい?」




「…赤ちん聞いてる?」

みしみしと音を立てているボールペンなど気にできないまま俺は放心状態に至る。これは紫原の教育を一からやり直した方がいいという事なのかどういう事なんだ紫原お前は誰でもそうやって男に向かって胸がどうたら言うというのかしかもお前その胸がどれだけでかいと思っているんだあの青峰が「紫原のおっぱいもみてえ」とか言う度に何度あいつを殺しかけたと思っているんだ分かっているのか!!!一通り頭の中で整理をして間を置く。冷静に考えた答えを口から出すとすれば「そうだな」待て俺は何を言っているんだ。

「…ほんとに?」

時間を巻き戻してくれ。切実にそう思いながらも何故か口から出る言葉は肯定の言葉ばかりだ。つまりは俺も普通の男子中学生だというのか、みしみしとさらにボールペンが悲鳴を上げたがもちろんそんなものを気にしてはいられない。紫原を見ると最後の一口を飲み込んでから「じゃあ」ぷつり、ぷつり、一つずつ紫原が着ていたシャツのボタンが外れていく。みしり、みしりとボールペン。

「さわって、いいよ?」

最後に聞いた音はボールペンが折れる音だった。


「………夢、か」

布団の中を見れば悲惨な事になっているそれに絶望しながらも何でここで目覚めたのかという心と罪悪感に板挟みされながらいつもより目覚めの悪い朝を迎えた。


121205

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