「あーかーちーん!」

勢いよく飛んでくるその光景に慣れてしまった僕は一歩、赤司君から離れて紫原さんが華麗に赤司くんにタックル(という名の抱き着き)をするのを横目で見た。周りからは勿論注目されているがこの二人は周りの目なんてどうでもいい、そんなバカップルなのだ。あのいつもは冷静な赤司君がここまで中学生らしく笑いながら痛むであろう体なんて気にせず紫原さんの頭を撫でているし、紫原さんも赤ちん赤ちんとまるで黄瀬くんのようになっているのだからもうこれはバカップルと呼んでもいいだろう。数秒そうやって倒れたままじゃれ合った後は通行の邪魔だからと立つが、廊下で「赤ちんあいたかったー」「朝会ったばかりだろう」などと言いながらキスをするのはもはや当たり前である。廊下の数人は見なれている人が多いのか素通りをする人と、命知らずな馬鹿が舌打ちをしながら過ぎて行く。僕はお得意のミスディレクションを発動したくなくても自然と発動されながらこの光景を間近で見ていた。見たくはないけど練習の事で赤司君と話がある為仕方ない。まあこうやって僕が考えている間も二人は二人の世界へ旅立っていた。

「あ、赤ちんさっきはごめんね?いたくない?」
「全然痛くないから大丈夫だよ」
「いつも気を付けてるんだけど赤ちん見たら我慢できなくて…」
「敦美…」

可愛い、そう言いながら腕を広げたら紫原さんがぱあ、と目を輝かせて赤司君の胸へ飛び込んでいく。こうなる事は僕達キセキの世代なら誰もが知っている常識だ。二人の世界に若干苛々しながらも二人はどんどん二人の世界へ旅立ってしまう。もう一生戻ってこなくていいから別のとこでやれよ、と思うが命が惜しいので口が裂けてもそれは言えない。それにまず今の二人には届かない。

「赤ちん、俺ね今度赤ちんと行きたいとこがあるんだー」
「そうか、なら今度の日曜日は一緒に出掛けようか」
「わー、ほんとー?」

うれしいー!だいすきー!確かにそうやって嬉しそうに笑う紫原さんは可愛いと思う。そこは僕も認めます。だがこの誰もが通る廊下で先ほどよりも深いキスをするのはやめてほしい。もうどうしていいのか分からず通行人ですら顔を赤らめている。それをただ一人僕は死んだような目で見ながら今すぐここに爆弾とか落ちてきませんかね、と友人に助けを求めるのだった。


121204

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