※殺伐

ぎしり、ベッドのスプリングが軋む音が聞こえる。大の男が二人も乗ってちゃあ当たり前か、なんてどうでもいい事を頭で考えながら目の前の室ちんを見つめた。アツシ、と甘ったるく呼ばれる名前に唾を吐きたくなった。するりと俺の脇腹を撫でる指も、俺を見るその目も、全部に嫌気がする。室ちんから目を逸らしてどこを見るわけでもなくぼーっとしているとその長くて細い指が俺の首辺りでぴたりと止まった。あくまで視線だけ室ちんを見つめると、その目は先程の視線とは違ってとても背筋がぞくりとするような、冷たい目で俺の首を見ている。まるでその首を掻き切ろうとするかのように。

「なに、殺すの?」

ぽつりとつぶやいた言葉に室ちんは苦笑した。そんなことするわけないだろ、って。ほんと、室ちんって俺の事嫌いだよね。更に独り言のように呟いた一言に室ちんはただ笑うだけで、それが更に気に入らなくて舌打ちをした。手はまだ俺の首にあるまま。少し経って愛してるんだよ、と俺の唇を塞いだそれ、入ってきた舌をかみちぎってやりたいと思いながらもただされるがままでいる。唇を離した後は室ちんがほんと、アツシって俺の事嫌いだよね。なんて言ってきたからしばらく考えて「や、違うけど」とはっきり答えた。うそつきとでも言いたげなその目にはっきりとした証拠を与えてやろうかと考える。

「別に、室ちんに殺されてもいいかなってぐらいには考えてるけど」

未だに自分の喉元にある室ちんの手を指さしながらそう言うと室ちんは少し黙った後に俺の首に爪を立てた。痛いし苦しい、だが抵抗はしない。彼がそうしたいというならそうさせてやろう。その行為をじっと見ていると今度は片方の手が俺の首へ伸びてくる。力は入れないまま握られたあと、がり、と音がした後、痛みに顔を歪める。室ちんはそれを見ながら血、出ちゃったね。なんて言って自分の爪についた俺の赤い血を見ながら笑った。俺は何も言わない。

「…アツシは、本当に」

憎い。その一言に今度は俺が笑った。やっと言ってくれた。それが室ちんの本心、どろどろして、汚くて、綺麗ぶっていても内心はどす黒いものでぐるぐる巻かれたそれ。綺麗事ばっかり言って熱血でバスケ馬鹿な室ちんは吐き気がするくらいに嫌だ。だけどこうやって本心を出してくれるのはとても好きだ、そっちの方が室ちんにとても似合ってる気がしたから。

「アツシ、」
「大丈夫だよ室ちん。そう思う事は当たり前だよ、人間だもん。ただの普通の人間、才能もないただの人間。だから才能のある人間に憧れという名の憎しみを持つのは仕方のないことだよ。全然悪いことじゃない。だって才能の無いただの人間はどうやったって才能のある人間になれないんだから。憎む事しかできないんだもん。だからね、俺室ちんの事がだあいすきだから、ただの人間の室ちんが憎い憎い憎い憎いにくい俺を、殺してもいいよ?」

それで俺の脳みそを取り出してその中から才能とやらを探し出しておまえが飲み込んでしまえばいい。それでおまえが満足するなら俺はこの心臓すらあげちゃう。俺はそのぐらい室ちんがだーいだあーいすきだから。ね?うん。ほんと、みにくいよね。


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