※百合



僕は、敦美がすきだ。

そう言われて俺はすぐに返せなかった。別に目の前の赤ちんが嫌いなわけじゃない、むしろ友達の域を超えているという部分もある。だが、俺も赤ちんも、女だ。冗談でしょ、と言うにも彼女の目がたまに試合中で見るあの真剣な目ととてもよく似ていて言葉は出せなかった。息をも止めるようなその視線に思わず後ずさりをするが後ろは壁であり一度後ずさりしただけで、距離はまた縮まるばかり。視線をどこにやったらいいか分からず左右にきょろきょろと目玉を動かせば「敦美」ともう一度名前を呼ばれた。

「僕が、気持ち悪いか」

違う、そんなことない。そう言いたかったのに何故か自分の口からは息がつまったような声が出てくるだけであって、それがとても恨めしかった。同性愛とかに偏見があるわけじゃない。どうでもいい。だけど今までの関係が崩れてしまうんではないかと思った。恋人とは、俺たちは女同士である。確実に普通の恋人とは違うという事は付き合った経験がない俺でも十分に理解できた。でも俺は赤ちんがすき、だ。恋愛というものはよく分からないけどこれはきっと友達という枠では収まりきれないんだろう。分かっているのに不思議と言葉は出てこず赤ちんから目を逸らすだけだった。不意にするりと手に生温かい温度の手を当てられびくりと肩が跳ねる。それを見て赤ちんは眉を寄せて一言「ごめん、」と言うだけだった。それでもきゅう、と弱々しく握られた指がとても愛おしくて赤ちんの手に俺の指を絡ませてみる。そしたら今度は赤ちんが肩を震わせて俺を見てきたから俺もやっと赤ちんの目をみる。その目はとても弱々しく、泣きそうな目をしていた。ぎゅっと手を握って震える声で呟くように赤ちんに伝える。

「おれ、あかちんのこと、すき、なの」

だいすきなの、無理いってるんじゃないよって事を伝えたくて何度もだいすきだから、と呟く。なんだか泣きそうだと思った瞬間に唇になにかやわらかいものがあたって、目の前に赤ちんがみえた。これが一体なんなのか、どういう事なのか一瞬で理解できて頭が沸騰しそうになるが、ぎゅう、と赤ちんからも力をこめて握られた手が嬉しくて俺もそっと目を閉じた。一瞬ともいえないけど、長いともいえない。そんな曖昧なファーストキスを終え、目を開けて繋がれていない方の手で自分の唇を撫でてみる。ああ、俺赤ちんとキスしちゃったんだ。そんな実感が胸に広がって、恥ずかしいという気持ちと底知れない幸福感が広がって思わず自然と顔が情けなく微笑んでしまう。

「敦美、かわいい」

いつもの大人びた雰囲気じゃなく、今は年相応の笑みを浮かべて言う赤ちんに心がふわりと浮くみたいな感触になった。「ね、もう一度、だめ?」赤ちんの頬はほんのり赤く染まっていたけど、その表情はとても大人っぽくて俺は赤ちんより頬が赤くなっているんだとおもう。ああ熱いな、とか思って小さく頷けばすぐに俺の唇に彼女の愛が降ってきた。

それは美しく汚れていく


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