あつい、さまして。そう言われ差し出されたそれに最初は戸惑ったものの今は気にする事もなく受け取ってそれに向かって息を吐くと白い湯気が吹き飛んで、それを何度か繰り返して渡すと安心してそれを飲む。冬場に寒いから、と作ったココアを冷まして飲んでは意味がないんじゃないかと思ったが何せ、紫原は猫舌な為に仕方ない。一緒に湯豆腐を食べている途中で泣いてしまったぐらいだ。

「赤ちん、中まだあつい」
「これ以上冷ますとぬるくなるぞ」
「でもあつくて飲めないしー…」

悩んだ末に「アイスココアにするか」と聞けば少し渋ったがそれでいいーという答えが返ってきた為氷を入れて来ようと台所へ向かった。(こうしてる間にも俺のコーヒーも冷めそうだな…)紫原の為なら仕方ないか、と紫原には少し甘い部分がある俺はコップにぽちゃりと入れてかき混ぜている間に先ほどまで俺達がいた場所からばしゃんと明らかにコップが割れたような音が聞こえ慌てて戻るが、想像通りコップが割れていてコーヒーの中身が地面に垂れている、がそれより気になるのは口元を手で押さえて丸まってる紫原だ。まさか、と思うが。

「紫原、飲んだのか、あれを」

聞いても答えが返ってこないが代わりにぷるぷると震えながら首を縦に振った。顔を覗けば涙目になっており相当驚いたのだと分かる。本来水を持ってくるべきなのだろうが慌てていた、という建前の中に正直ムラっとしたのもある。涙目な紫原かわいい、心で思い切り叫んで口元の手を退けてその半開きの口に自分の舌を滑り込ませた。紫原は驚いたように目を見開いてたぶん赤ちん、と発しているつもりなのだろうがそれもただ二人の唾液の中で溶けてしまう。熱い舌を冷ますようにわざと舌を舐めてやると頬を赤く染める紫原が目に入り、今日何度目かの紫原可愛いを心の中で叫んでから口を解放してやると別の意味で涙目な紫原が「…赤ちん何すんの」と訴える。全く悪いとは思っていないがすまない、と口だけの謝罪をするとそれを見透かしたようにむうと頬を膨らませるがそれすら可愛いと思える俺はもう末期だろうか。

「でも、もう熱くないだろう?」
「…あ、ほんとだ」

赤ちんすげー、と誤魔化された事に気付かないできらきらと目を輝かせる紫原を見て内心ほっとする。ああしかしこれから猫舌な紫原が火傷をした時にはこうすればいいか、紫原は(俺に下心というものがあるという事も知らずに)快く受けてくれるだろう。ふむ、と一人頷き、その日からアイスココアにする事は無くなった。


121118

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