室ちんもう俺に愛してるだなんて言わないで。


そう言われたのは30秒前ぐらいだろうか。本当は10秒前くらいかもしれない。時間が流れる感覚がおかしくなるくらいには俺は混乱した。アツシから突拍子もない話題を振られるのは何も今回が初めてではない。俺もそれなりに対処できるようになったと自惚れていた矢先であった。持ち前のポーカーフェイスを崩さずにうん?と問い返すがアツシは再度、さっきの言葉をただ無表情に繰り返すだけである。なるほど、全く理解が出来ない。仮にも俺達は1週間前ぐらいに恋人になったはずではなかろうか?俺がしつこかったか?いや、自重はしているつもりだが。

「室ちんさあ、俺に愛してるって言い過ぎ」

いや、今日は一回しか言っていないよ。アツシがさっきのセリフを言う前に一回だけね。昨日だって5回?ぐらい。ほら、少しだろう。目線でそう伝えた(つもり)だがアツシは無表情を崩さずに「はあ?15回の間違いじゃないの」目線で会話が出来るくらいにはお互いの事を分かってるはずなのに何故か今のアツシの言葉は全く理解が出来ない。

「アツシ、照れているって事かい?」
「は?全くちげーし。何言ってんのきもい」
「だよな」

アツシが照れるわけないしな。悲しいくらいに分かっているそれは初めての日にも前日の夜にも確認済みだ。じゃあ何だろう?と再度アツシを見るが相変わらずお菓子を頬張ってごろごろ寝っころがっているだけだった。さっきの話題はスルーした方がいいのだろうか、うーんと考えていたら先程よりも格段めんどくさそうな声で「だからあ」と聞こえた。

「愛してるがもったいないじゃん?」
「What?」

思った事をそのまま返すと今度アツシは舌打ちをした、正直急に1週間前に恋人になったばかりの恋人にそんな事を言われて舌打ちしたいのはこちらなのだけれど、したら確実にアツシが拗ねるからやめておく。少しばかり考えて何となく、本当に何となく分かってきたような気がするがそれでもやはり何故そういう事を言うのか分からない。

「駄目な室ちんの為に説明する」
「お願いするよ」

深いため息を吐いて、少しばかり間を置いてからアツシは珍しく俺の目を見た。

「あのねえ、俺はね、室ちんに愛してるって言葉をこれ以上消費させたくないの」
「今の室ちんは俺が恋人かもしれないけど、俺達はどっちも男だし」
「それで室ちんは将来的に俺と別れたら女の子と付き合って、それから結婚もするとおもう」
「でも今俺に愛してるを使い切っちゃったら、その女の子も室ちんもかわいそーでしょ?」
「だからね、俺は室ちんに」

それまで黙って聞いていた俺は何かが切れたようにアツシを抱きしめていた。勿論アツシは話を途中で切られた事が気にくわなかったのか何かしら言っているが今の俺はそんな言葉も全部聞こえないふりをしてアツシに愛してると何度も何度も呟く。アツシは驚いているのか呆れているのか何も抵抗も無にただその言葉を聞き続けているみたいだったが俺はそれすらも気に入らなくて抱き締めたまま話を続けた。

「俺はアツシが好きだよ、愛してる」
「確かに俺もアツシも男同士だ、けど俺はアツシと別れる気なんて全くない」
「むしろアツシが別れたいと言い出しても俺は諦めきれないぐらいだと思う」
「愛してるに消費があるなら俺はそれをアツシに全て捧げたいんだ」
「アツシ、愛してるよ」

それに対してアツシは何も言いはしなかったけど背中に回された腕と最後の「…よくそんな恥ずかしい事いえるよね、…俺もだけど」すき、と口元に耳を寄せないと聞こえないぐらいの声で呟いたそれに俺はこれまでにないくらいの笑顔で再度愛してる、と伝えた。

「やっぱしつけーし!」
「はは、照れ隠し?」



121104

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