ひらひらとした純白のドレスに昔は憧れていた。初めてみた両親の結婚写真を見て目をきらきらさせていたし、テレビでウェディングドレスが出れば着てみたいなあと言葉を零していた事もあった。

だけどその夢は小学生の高学年のころから崩れていく。

中学へ近づいていくにつれ段々と身長が伸びていき、小学校を卒業するころには男子すら抜いてしまったのだ。中学に入ってからは化け物だ、女じゃない。そんな言葉を常に耳に通しながら生きてきたし、これからもそうなのだと思っていた。その頃から女である自分でさえ呪って、ウェディングドレスを着るなんて夢も自分自身で潰してしまった。まるで無かったかのようにした。両親も色々心配はしていたが急激に伸びた自分が怖いんだろう。何も言わないで逆によそよそしくなった気もした。口調も俺にかえてスカートも全部捨ててズボンだけ履くようになった。髪だってばっさり男子みたいに切った。だけどそれでも女である事に変わりはなくて、上にあって下にはない。そういう事である。


「紫原敦美」

ある日一人の男が俺の名前を呼んだ。クラスでも孤立していた俺にとって俺の名前を呼ぶ人は少ない。(大体化け物とか男女とか)。久々に他人から呼ばれた名前にそういえばそういう名前だっけなあ、と他人事に考えて彼を見る。綺麗な赤色だった。

あの日俺はバスケ部に入れと言われた。する事も無かったし、何よりこの人についていけば間違いないんだとそう思ったから言う通りにした。その日から俺をあれこれ言う人は居なくなったし無視される事もなくなった。今思えば赤ちんが色々してくれたんだとおもう。あの日、俺は救われた。





「ムッちゃん!」
「わ、どーしたのさっちん」
「もー、ぼーっとしてちゃ駄目だよ!もう少しなんだからね?」
「あ、そっか」

俺、結婚するんだ。今は小さい頃に夢にまでみた純白のひらひら、ウェディングドレスを着ている。正直全然似合わない、って思ったんだけどさっちんや黒ちんや黄瀬ちんがすごく似合うって言ってくれたから、別にいいかなあって思っちゃう。赤ちんはまだ準備中らしいから見せていない。

「おーい、赤司が準備終わったぞ」
「こっちも終わったよー!」

赤ちんにこの姿見られる、そう思ったら何か恥ずかしくて逃げたくなったけどドアが開いてしまって逃げ場もない。ぎゅ、と綺麗なドレスを手で掴みながら入ってきた人、赤ちんを見ると(あ、かっこいい)素直に、そう思った。かっこいい。赤ちんは大人びてるし、背だって俺と同じくらいになった。ここまで黒のスーツ姿が似てる人も、あんまいないよ。それぐらいかっこいい。口には出せなかったけど、きっと赤ちんなら分かってくれる。その肝心の赤ちんはこっちを見て驚いてたけどすぐに目を細めてこっちへ近づいてきた。似合わないかなあ。

「敦美、綺麗だ」

さらりと頬を撫でてそう言ってくれた。よかった、赤ちんがそう言ってくれた事が嬉しくてつい俺も「赤ちん、すっげーかっこいい」と言ってしまったけど、嬉しそうに笑う赤ちんが見れたからいいことにする。さっちんも「ね?言ったでしょ?」って嬉しそうだ。ああ、俺、なんかすごい幸せだなあ。

「あ!もうすぐだし私達は席に戻ってるね」
「ああ」
「頑張ってくださいッスよー!」

ひらひらと手を振って皆出ていき、ぱたりと閉じたドアをしばし見てから赤ちんに視線を移す。何だか照れくさくて言葉が出てこない。そんな沈黙の中で最初に口を開いたのは赤ちんだった。

「敦美、僕はとても幸せだよ」
「…赤ちん、俺と同じことかんがえてるね」

嬉しくてわらった。むかしあんなに女だって事が嫌だったのに、今はこんなにも女で良かったって思ってる。俺、すごく幸せ。赤ちんを連れて家に行って、お母さんとお父さんに言ったらお母さんは泣いていたし、お父さんは娘を幸せにしてやってくれって言ってた。あの時の赤ちんかっこよかったなあ。娘さんを、僕にくださいって。まるでドラマや漫画みたいだった。その日の夜はお母さんとお父さんと久しぶりにまともに話した気がする。ごめんなさいって謝られた。いっぱい昔の事を謝られて、最後に幸せになってねって言ってくれた。俺もちょっと泣いちゃった。

「俺ね、赤ちんと出会ってなかったら今もきっと死んだように生きてるとおもうよ。赤ちんがあの日、俺に声をかけてくれたから今の俺はいるんだ、赤ちんは俺を助けてくれたんだよ」
「それを言うなら僕もだよ。僕は敦美が居たからここまでこれたんだ。敦美でなかったら、俺は結婚なんてしなかったと思うよ」

だから泣かないで、と言う赤ちんに吃驚した。俺、泣いてたんだ。「嬉し泣きなんてはじめてした」と赤ちんに言えば笑われてしまった。赤ちんは俺の涙を優しく拭いて、優しく手を握る。ああ、俺、結婚するんだ。

「敦美、愛してるよ」

永遠の誓いをたてようではないか。


121103 修正
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