「敦」
「なあに赤ちん」
「…」

呼ばれたから答えたというのに何だろうこの沈黙は。と相変わらずお菓子を口に含みながら考えたがそれを口には出さない。どうしたんだろーと思いつつもお菓子を食べていると再度名前を呼ばれた。今度は名前も呼ばずに短く「なあにー」と答えたがまた赤ちんはむ、とした顔で俺を見てくる。最近の赤ちんはよくわからない。皆を呼び出して前髪は切り出すし。何か目は黄色くなってるし、どうせなら紫色にしろし。

「敦、お前は敦だ」
「うん」

つかそれ俺が一番よく知ってんじゃね?と思ったけどこういう時の赤ちんには茶々を入れない方が良い事は知っている。だからお菓子を食べながら黙って聞く事にした。「で、敦」赤ちん名前呼び過ぎ。俺の名前って何だっけ、って気分になってくるんだけど。

「僕はなんだ」
「赤ちん」
「…世間一般的に言うと何だ」
「んー、あかしせいじゅうろう?」

途端に赤ちんがそれだ!という顔をして目を輝かせた。肩に乗せてある手が若干怖い。ちょっと意味がよくわかんなくて俺は思わず「赤ちんこわい」と呟いてしまったがそれに構わず赤ちんは「僕の名前は?」赤ちん。即答したが赤ちんは輝かせていた目が急に暗くなった。こころなしか肩に乗せてあった手の力が強まった気がする。どうしたの赤ちん、何か高校に入ってから名前で呼ぶし、僕に逆らう奴は親でも殺すとか言うしよくわかんない。あ、でも前からそうかな。

「そうだな、僕が悪かった。回りくどい事を言った」
「うん」

正直飽きてきたどうしよう。珍しく赤ちんが京都から秋田に来てまでやる事がこれなのかなあ。赤ちんはもっと時間を有効活用しなきゃだめだよ。もちろん口には出さない。表情には出すけど。

「名前で呼んでくれ」
「んー…ん?…?赤ち」
「……敦、僕達はいわゆる恋人同士というものだ」
「うん」
「それで、前まで僕は敦を紫原と呼んでいただろう?」
「うん」
「で、僕は今敦と呼んでいる」
「うん」

一つ一つゆっくり話してくれる赤ちんに対してうんうんと頷いていたら、全部話し終えたのか俺の目を見ている(若干睨んでるような気もする)。あー、うーん?つまりそういうことなのかなあ。無視してるわけじゃなくて、ただよくわかんないから黙っていただけなのに赤ちんは「…すまない。馬鹿な事を言った、忘れてくれ」と目を逸らして言うものだから赤ちんのその言葉と被せるように「征十郎!」と半分叫ぶ形で呼んでみた。つか赤ちんの名前長くね?なのに何も反応を示さずに俺を見て固まってるもんだからあれ、違うのかなあとか思って首を傾げていると赤ちんがわなわなと震えだした。今日の赤ちん本当どうしたんだろう。

「僕の人生に一生の悔いはないよ」
「ええー、俺は赤ち…、せいじゅうろう?とまだまだやりたい事あるよー?」
「そうだな、敦可愛いな。だけど僕の心臓がもたなさそうだから赤ちんのままでいいよ」
「ふうん?」

つか赤ちんその携帯なに?何か録画する時みたいなぴろんって音したんだけど、気のせいかな。


121025

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