赤ちんの手はつめたかった。初めて手を触った時にはあまりに冷たくて赤ちんが死んでしまうんじゃないかってぐらいに冷たくて、それを俺は温めたくて赤ちんの手をよく握っていた。赤ちんはそれを見てよく笑ってくれた。そうしていく内に俺の手は冷たくなった。黒ちんにも黄瀬ちんにも、皆に手が冷たいね、ってよく言われてたのを思い出して、俺は赤ちんの手をはなした。これ以上赤ちんの手が冷たくなってしまったら赤ちんが本当に死んでしまうんじゃないかと俺は思った、すごく怖くてその日から手を握る事は無くなった。俺の手は冷たいままだった。

それから高校は別々になって、連絡もあまりとらなかったし、皆どうしてるんだろうって思ってたら赤ちんから皆集まれ、と集合が掛かって久々の赤ちんに心をわくわくしながら行ったのに、赤ちんは違っていた。なにがちがうの?自分で思った事に自分で疑問を持つ。仕舞いにはハサミで前髪を切ったり、変な事言ったりしてびっくりした。最後に赤ちんが行ってしまう前に赤ちんの手を握ってみた。久々に触れた赤ちんの手はとても暖かくて、何だか俺の手が溶けてしまいそうな感覚に至った。俺が溶けてしまうのが怖くて俺はまたその手をはなした。赤ちんの左右違う色の大きな瞳が俺を見る。あかちん、と呼んだはずの声は喉が掠れてうまく言えなかった。赤ちんはそのまま俺に何かを言い掛けたけど何も言わずに行ってしまった。あれほどにまで願ったあたたかさがこんなにも怖いだなんて思わなかったのだ。なんで?どうして?自分にも分からないまま。


俺の手はまだつめたかった。それは室ちんからも言われた事だった。アツシは手が冷たいな、と言われて触れた室ちんの手は何だかあたたかくも冷たくもなかった気がする。室ちんはふしぎだ。そのまま手を離されて自分の手をじっと見つめる。見飽きた自分の手、何の面白みもないけど。今思えば、昔の赤ちんの手が冷たかった時に俺は赤ちんがあたたかくなってしまうのが怖かったのかもしれない。だから自分から手を離したのかな。でも俺の手は冷たいからどうせ赤ちんをあたたかくする事もできなかったんだろうな。考えるのがめんどうくさい、やっぱり俺に難しい事考える脳みそはないんだ。ごろりと寝返りをうった時室ちんが言った。

「アツシは心が温かいんだね」

何をいってるんだ、と室ちんの方をゆっくりと向けば室ちんも自分の手を見つめながらそう呟いていた。何言ってんの室ちん、と言う前に室ちんが振り向く。

「人間は手が冷たいと心が温かいそうだよ」

にこにこと微笑んで言う室ちんに逆に俺はいらいらした。ばっかじゃないの、と言おうとした瞬間に赤ちんを思い出す。口から出掛けた言葉をそのまま喉へ押し込むと室ちんはまたふふ、と笑った。こういう室ちんは正直すきじゃない。

「アツシは優しい心の持ち主だって事になるんだよ」

じゃあ、赤ちんはどうなるの。こんな事室ちんに言ってもきっと困った顔をされるだけだ。赤ちんの手は昔は冷たかった。なのにこの間会った赤ちんの手はあたたかくて、溶けそうなくらいだった。もしこの冷たい俺の手のかわりに俺の心が温かいって言うんなら、赤ちんの心はとても冷たい事になるの?つう、と頬に何かを伝っていく感触が気持ち悪い。それを拭う為に頬に触れた手はとても冷たかった。

最初、赤ちんの手は冷たかった。でも俺の手は最初は温かかった。最初に手を握ってくれたのは赤ちんだし、初めて触れた時は冷たかったけど俺の温かすぎた手はその冷たさが気持ちよくてその手を握り返してしまったんだ。それからはよく赤ちんの手に触れる事が多くなった。そうしていく内に俺の手が冷たくなっていって、まるで俺の手のあたたかさが赤ちんにうつったみたいに赤ちんの手があたたかくなっていくのを感じて俺は怖くなった。俺のせいだ、っておもった。赤ちんの手が温かくなって、でも何だか手とは関係なく、どこか冷たい感じの赤ちんが怖くなってそのまま手を離してしまった。このまま赤ちんが温かくなったらだめだって、思った。赤ちんのためだった。なのに久々に触れた赤ちんの手はあんなにも温かくなっていた。相変わらず俺の手は冷たいまま。俺が赤ちんから奪っちゃったの?俺にあたたかさなんてないよ、本当は赤ちんのほうがもっともっと温かくて、やさしいのに。

君の心臓が冷たい

あの日赤ちんは俺に心臓をくれたんだ。


121022

意味わからんはなし

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